(第106回全国高校野球静岡大会)

 ステップを踏んだら間に合わない。走りながらボールをとってジャンプし、空中から一塁に投げる。ぼてぼての内野ゴロや逆シングルの時に得意のジャンピングスローをとっさに使う。

 「型にとらわれず、場面場面で対応するようにしている」

 そう解説する東海大静岡翔洋の遊撃手、岸川和広主将(3年)の発想は自由だ。

 お手本にするのは米大リーグの選手たち。テレビやユーチューブでプレーを研究しては自主練習で技を磨いてきた。

 腰を落として真正面でボールをとり、ステップを踏んで正確に投げる。高校野球ではこうした基本的な守備動作を大切にする。

 「日本のプレーは良いところがあるので、ふだんはしっかりとって投げる。でも、とにかくアウトをとらないといけないときは自分で判断する」。信念は揺るぎない。

 大リーグとの出会いは中学1年生の夏だった。東京都出身の岸川主将はリトルリーグの強豪「調布リトルリーグ」で全国優勝し、日本代表メンバーとして米国で開かれた世界選手権大会(ワールドシリーズ)に出場した。

 滞在中、大リーグの有名選手による招待試合を観戦する機会があった。じかに見るアーロン・ジャッジ選手、ダルビッシュ有投手らのプレーに魅了された。

 「バットにボールがあたる時の音、守備の一歩目の速さ、肩の強さが全然違う」

 大会では米国の地区代表と世界各地域の代表が戦い、調布リトルは3位になった。チームは世界に通用したが、他国の選手一人ひとりは体が一回り大きく、打球の鋭さ、足の速さの違いを痛感した。

 通訳を介して話すと、練習時間は2時間ほど。ほかのスポーツをする選手もいて、野球をやるのは「楽しいから」。文化の違いも感じた。

 昨夏、東海大静岡翔洋は決勝で浜松開誠館に敗れ、あと一歩で甲子園を逃した。チームは悔しさをバネに「今年こそ」と鍛えてきた。

 主将として仲間に助言する時に気をつけることがある。「調子が悪い時、伸びている時、それぞれ自分の状態にあった自主練習をするように話している」と明かす。

 必要ならば型にとらわれず、自ら考える野球で甲子園へ――。世界を見た経験が視野を広げ、夢を広げる。(大海英史)

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