シリーズ『2024くまもと この1年』、今回は今年大きな節目を迎えた熊本市の庁舎についてです。他の都市の事例も取材しました。

【9月27日 議会での採決】
今年9月の熊本市議会、新庁舎の設計関連予算案が賛成多数で議決されました。

2016年に起きた熊本地震の後、2018年度から本格化した庁舎建て替えか否かの議論。議会は大西市長が示した庁舎建て替え方針を了承し、前進させることを決めました。

【9月27日 大西 市長 会見】
「これでいよいよ新たに移転、市役所の新しい建設というスタートになる。次の庁舎が新しい機能をもって災害が起こっても安心な庁舎、いざ大きな地震が来ても安心なようにそういう態勢をつくっていけるように頑張っていきたい」

一方、議会ではこの議案をめぐり、賛成した会派のうち自民党系の第2会派・熊本自民党では4人が反対し、会派を離脱。結果、3つの会派に分かれる展開に。

【10月1日 熊本自民党を離脱し新会派を結成 高本 一臣 議員】
「会派の総意に従わなかったわけですから、それなりの責任を取らないといけないという形で、今回の脱会に至りました」

大西市長は本庁舎と議会棟の建設を同じ中央区の『NTT桜町の敷地』に、そして、現在、本庁舎内にある中央区役所については『花畑町別館跡地』にそれぞれ移転建て替えとする考えを表明しています。

概算事業費は約616億円。このうち市負担額は合併推進債が活用できれば、約255億円とされています。

新しい庁舎とは、どのようなものなのでしょうか。

11月、市議会・庁舎整備に関する特別委員会のメンバーは先進事例を視察しました。そのうちの一つがここ、神奈川県の川崎市役所本庁舎です。

【川崎市 尾谷 いずみ キャスター】
「去年、完成した川崎市の本庁舎にやって来ました。どんな建物かと言いますと、地上25階、高さ110メートルを超える高層ビルです」

熊本市役所は地上14階、約64メートルですから、2倍近い高さです。

ここは、川崎市本庁舎25階の展望ロビー。

この日は小雨の降る平日でしたが、市民の姿がありました。意外にも、川崎市にはこれまで中心部で眺望を楽しめるスポットがあまりなかったそうです。

【川崎市民】
「川崎市民としては、市が上から見られるというのは今まで経験がなかったので、いいなと思った」

川崎市本庁舎があるのは、JR川崎駅と京急川崎駅、いずれにも近い市中心部。川崎市は京急川崎駅とつながる通りを〈にぎわいの軸〉と位置付けていて、この本庁舎自体がにぎわいの拠点となっているようです。

【尾谷 いずみ キャスター】
「正面から進んでいくと、まず大きなビジョンが出迎えてくれます。そして、そこに広がるのはとても広い空間。『アトリウム』と呼ばれるスペースです」

『アトリウム』は庁舎のエントランスであると同時に、カフェやコンビニが併設されていて、閉庁時でも誰もが自由に行き来できるようになっています。

ここでは屋根付きの広場として、市主催の催しや縄跳びの大会が開かれるなどイベントにも活用されています。

アトリウムに隣接するフロアには会議室などが設置されていて、市民も利用可能ということです。

ところで川崎市本庁舎はなぜ建て替えとなったのでしょうか。また、その際、市民から異論が出ることはなかったのでしょうか?

【川崎市・庁舎管理課 市川 浩章 課長】
「東日本大震災の直後で、いろんな自治体が庁舎機能が止まって災害対策活動が行われなかったという事例があったし、実際本庁舎も当時70年以上たっていて、かなり耐震性が低いという事実があったので、『大きな建て替え自体をしない方がいいんじゃないか』という意見はあまりなかったと思う」

熊本市の議員たちが視察しているのは議場です。この天井は『膜天井』と呼ばれています。万が一、天井が落下するような大地震が起きたとしても、まるで布がフワリと落ちるような軽い素材ということです。

広い空間のこちらは職員の執務室。大きな揺れが起きても落下被害を防ぐため、あえて天井板を省いて構造がむき出しの天井となっています。

庁舎整備に当たって、川崎市は建て替えるかどうかを決める段階から市民ら第三者による委員会を作り、意見を聴いたといいます。

【川崎市・庁舎管理課 市川 浩章 課長】
「公募で入っていた市民とか町内会の代表であるとか、商工会議所の代表などに入ってもらい議論をしてもらい、本庁舎を建て替えるということを基本構想の中で決めた。建て替えが決まった後に基本計画を作ったが、そこでも同じように公募した市民や町内会代表などが入った委員会を立ち上げ、設計を発注するに当たっての大きな考え方というのはそういう中でまとめた」

川崎市本庁舎は、元の庁舎と同じ場所に建て替えられています。総事業費は約470億円。(熊本市庁舎の概算事業費は約616億円)

【熊本市議会 庁舎整備に関する特別委員会 西岡 誠也 委員(市民連合)】
「(川崎市本庁舎は)金額が2020年の契約だからかなり安かったと思う。(今は当時より)人件費、材料代が上がっているはず」

【熊本市議会 庁舎整備に関する特別委員会 坂田 誠二 委員長(自民党)】
「(川崎市本庁舎は)建物の割には低価でどういう工夫をされているか、その辺は今からいろいろ考えて、市民の皆さん方もいろいろな形で理解を得られるような庁舎を造っていくことが大事なんでしょうね」

【熊本市議会 庁舎整備に関する特別委員会 高本 一臣 委員(創生熊本)】
「各自治体の実態に合った庁舎をしっかりと考えていかないといけないでしょうね。そこに市民の合意形成が必要不可欠と改めて思いました」

熊本市は、これから行う新庁舎の基本設計、実施設計の業務について、業者に一括発注する方針で今年度中の契約を目指しています。この契約をもって、合併推進債の活用が可能となる見通しです。

【11月22日 大西 市長 会見】
「実際に設計していく中で、機能に市民の希望を入れていくかはワークショップを行ったり、シンポジウムを行ったり意見を聴く場が出てくると思うので、そういった中で皆さんが参画できるように、まずはその条件を整えることが重要と思う」

熊本市は新庁舎の完成時期は示していないものの、調査・設計などに3年から4年、その後の建設に3年から4年程度としています。

一方で、熊本市では市民グループが建て替えの賛否を問う住民投票条例の制定を目指し、11月に市選管に署名簿を提出。

審査の結果、1万8988人で、請求に必要な数を超える署名だったことが16日、発表されました。

グループは今後、条例制定の本請求を行う見通しです。

庁舎整備について、熊本市は住民投票の是非をめぐる判断も求められることになります。

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