(29日、第106回全国高校野球選手権三重大会決勝 鈴鹿0―2菰野)

 「マジかよ」という言葉が、思わず出た。

 2点を追う九回表、鈴鹿のエース今村颯(はやと)投手(3年)は、この試合の初打席に備えて次打者席にいた。1死一、二塁の好機。ところが、前の打者の遊ゴロは併殺となり、試合終了。菰野の選手らが歓喜する景色が広がった。

 「マジかよ」。津田学園との準決勝を終えた27日夜にも同じ言葉が出た。右手の人さし指に痛みを感じ、見ると皮がむけていた。翌28日はボールも握れない。中江孝志監督と相談し、決勝の先発は回避してもらった。

 鈴鹿は、中江監督が「彼となら心中できる」と言う今村投手中心のチーム。これまでの5試合すべてに先発し、抜群の安定感を見せてきたが、継続試合になった準々決勝で連投したこともあり、指には負担がかかっていた。

 この試合、高山航太朗投手(2年)が6回を2失点に抑え、今村投手は七回から救援。人さし指に負担がかからないカーブを主体に2回を無失点で抑えた。最終回、自らのバットで反撃するはずだった。

 今村投手には忘れられない試合がある。救援で投げた昨夏の三重大会2回戦。いなべ総合の強打者に八回、逆転2点本塁打を打たれた。試合後、泣き崩れていると、先輩たちが「来年は笑ってくれよ」とねぎらってくれた。その後、いなべ総合は勝ち進んで甲子園に出場した。

 「あの言葉があったから、1年間がんばれた。甲子園には一歩届かなかったけど、先輩にありがとうと笑顔で伝えたい」。涙はもう乾いていた。(本井宏人)

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