(29日、第106回全国高校野球選手権徳島大会決勝 鳴門渦潮6―5阿南光)

 肩で息をしながら、深呼吸をして再びマウンドに上がった。

 阿南光の吉岡暖(はる)(3年)は、いわゆる野球小僧だ。エースだからと言って、一塁までの全力疾走をしないという選択肢はない。主軸を打ち、徳島大会の初戦は「チームに勢いがつくなら」とセーフティーバントを試みたこともあった。

 「地元を盛り上げたい」。それが吉岡の口癖だった。中学時代、硬式チームで全国優勝すると、バッテリーを組む捕手の井坂琉星(3年)らとともに、地元中学生が進む阿南光に進んだ。

 春の選抜大会では私立の強豪校を次々と破り、公立で唯一の8強入りに貢献した。

 U18(18歳以下)日本代表候補の合宿では、広陵(広島)の高尾響や、報徳学園(兵庫)の今朝丸裕喜ら世代トップレベルの投手たちと練習をともにし、驚きと悔しさの感情が混ざった。

 「自分はまだまだ」「良い選手は人間性がすばらしいと思った」。少しでも彼らに追いつけばと、ゴミ拾いもした。

 心のどこかで、2018年に全国準優勝した金足農(秋田)にあこがれがあったという。

 「阿南市は野球のまち。自分が活躍して、小さい子の野球人口を増やしたい」

 準決勝まで1人で投げ抜いてきた右腕は、この日も先発へ。140キロ超の直球と変化球で抑えにいったが、粘る相手打線に苦戦した。

 タイブレークの延長戦に入った十回、先に2点を取ったが、その裏の守りで追いつかれ、なお1死二塁。この試合の138球目を左中間に打ち返された。

 サヨナラ打となる打球を目で追い、ひざに手をつき、崩れた。

 「みんなにごめんと思って……」。ベンチ前で涙する井坂に肩を支えられながら、号泣した。

 「地元を盛り上げたい一心でやってきたんですけど、負けてしまった。これからみんな、野球をやるやつも、やらないやつもいる。またどこかで会って、きょうの話ができたら」

 3年間で一番の思い出を問われ、「選抜で2勝したこと」と切り出したところで、「だけど」と言い直した。

 「徳島県で一番練習したと思う。日々の練習が一番の思い出かな」

 甲子園で輝く〝公立の星〟をめざした右腕の夏が終わった。=むつみ(室田賢)

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