(22日、第106回全国高校野球選手権西東京大会準々決勝 拓大一1―7日大三)

 拓大一の正捕手、佐藤陵成(3年)は1年前、血液のがんと診断された。仲間とまた野球がしたい――。強い思いでグラウンドに戻ってきた。チームは今夏、ノーシードから8強まで駆け上がり、日大三に挑んだ。

 一回、いきなり日大三の先頭の打者に高めに浮いた球を右翼席に運ばれた。流れを断ち切れず、この回4失点。序盤は直球でテンポ良く、強打の日大三打線を打ち取ろうとしたが、うまくいかなかった。「自分も含め、ここまで来られると思っていなくて、少し気持ちが浮いてたかな」

 昨年8月、ステージ3の悪性リンパ腫が見つかった。頭が真っ白になり、医師の説明が耳に入ってこなかった。

 仲間も動揺した。「野球のこと、忘れて欲しくない」。本多将大(3年)はそんな思いを込めて、他の同級生と病床の佐藤にボールを差し入れてくれた。主将の西方優太(3年)は、毎日のようにメッセージを送ってきた。「戻ってこい」「待ってる」

 だが、思うような検査結果が出ず、復帰できるか不安になることもあった。閉ざされた病棟での日々、気がめいった。抗がん剤の副作用で、「つらいよ」と仲間にメッセージを送ったこともあった。

 そんな時、もらったボールを握り、仲間のメッセージを読んだ。病気が分かる前の日常に戻ったようで、元気が出た。

 今年1月、思いが通じ、部活に復帰した。初めは普段通りの練習ができなかったが、仲間と話したり、一緒に帰ったりするだけでよかった。徐々に動けるようになると、副作用で増えた体重を減らそうと遅くまで残って走りこみ、バットを振り続けた。そんな姿にチームメートは刺激を受けた。

 今夏、佐藤は背番号「2」をもらった。仲間に恩返しする番だと思った。2回戦、3回戦、4回戦を突破し、優勝候補筆頭の東海大菅生との5回戦。一気に10点を奪い、試合を決めた四回、適時打を放った。捕手としても勝負どころで直球を要求。守備でも攻め、20年ぶりの8強の原動力となった。

 22日の日大三戦。拓大一は五回に1点をかえし、九回にも二、三塁のチャンスをつくった。だが、追いつけず、佐藤の前の打者で試合は終わった。

 でも、悔いはなかった。仲間にはこう伝えるつもりだ。「みんなのおかげだよ、ありがとう」=神宮(西田有里)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。