(18日、第106回全国高校野球選手権栃木大会2回戦 鹿沼商工3―2白鷗大足利=延長十回タイブレーク)

 春の関東王者に鹿沼商工が食い下がる。2―2で迎えた八回裏、白鷗大足利はついに、150キロ台の速球を誇るエース昆野太晴(3年)を投入した。もう1点も与えない――。

 だが、鹿沼商工はこの時を待っていた。組み合わせが決まって以降、「昆野選手対策」1本に的を絞っていたのだ。

 マウンドから打者までの距離は18.44メートルだが、15メートル先のピッチングマシンを150キロに設定して球を見る。バットは出さず、体でタイミングをとる。ひたすらそんな練習を繰り返した。「目が慣れると140キロが遅く見えるんです」(中村裕監督)。周囲から「さすがに無理だろう」とあきらめの声が聞こえていたが、監督が「絶対にできる。打てる」と言い続けた。

 延長タイブレーク十回裏。人一倍対策に打ち込んだ吉原啓太(2年)が、昆野のスライダーを振り抜く。芯は外れたが、打球は右中間に。「絶対に捕らないでと願いながら走りました」

 生還した上野景太(3年)、そして吉原に仲間が次々に抱きついた。

 「純朴な良さがある」と監督がいう選手たち。愚直に練習に取り組む一方、この日の序盤は関東王者の圧力に、弱気な表情も見せていた。それでも、五回のクーリングタイムで監督が「ファーストストライクをしっかり振れ」と声をかけると、闘志を取り戻した。

昆野投手「最高の2年半だった」

 一方の昆野。吉原の打球を目で追った後、グラウンドにひざをついた。全国屈指の球威を誇り、春の関東制覇で周囲がさらに騒がしくなったが、「チームを勝たせるピッチング」に集中した。「打たれたのは自分のせい。でも、このチームで野球ができて楽しかった。最高の2年半だった」。最後は涙をふき、前を向いた。(高橋淳)

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