(13日、第106回全国高校野球選手権大阪大会1回戦 香里丘―緑風冠)
相手エースが登板した七回裏。先頭打者として打席に立った緑風冠の1番、伊地知(いじち)颯(そう)主将(3年)は強振した。狙っていた真ん中、低め。
打球はぐんぐん伸び、中堅を越える。三塁まで駆け、両手を上げてベンチを見ると、双子の妹の凜央(りお)さんはスコアを書くよりも先に、片手を上げて「ナイバッチ!」と笑顔で叫んでいた。
妹は、そこまで野球に興味がないと思っていた。だからマネジャーとして入部すると聞いて、耳を疑った。
「入るならちゃんとしろよ」と言うと、「するわ」と返された。しかも食い気味に。
小中も一緒で、高校は部活も同じ。両親にも「そんな双子おらんわ」と笑われた。
凜央さんは、兄に対しても他の選手と同じように接する。ただ、家に帰ると思っていることを伝えた。不調になると態度に出る兄。「顔怖かった。失敗しても誰も責めないし、周りをもっと見て」と何度もいさめた。
颯さんは「分かったよ」と答える。不機嫌になりつつも。自分のプレーや態度を見直すきっかけをくれていることは、重々承知していた。
颯さんが放った三塁打。だが得点にはつながらなかった。それでも笑顔でベンチへ。
凜央さんは「いつもなら落ち込むのに、今日はずっと笑顔だった。攻守ともに引っ張ってくれて、頼もしい主将そのものだった」と振り返る。
その頼もしい主将は五度、打席に立ち、2安打、2四死球。四度出塁し、二度ホームを踏んだ。試合は、1点差で敗れた。
相手校の校歌が流れているとき、凜央さんは隣の兄を見た。涙を流しながら前を向いている。その姿にもらい泣きした。
球場を出る。まだ真っ赤な目の2人。「おつかれさま」「ありがとな」。またちょっと泣いた。(西晃奈)
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。