(12日、第106回全国高校野球選手権東東京大会2回戦 城東16―1かえつ有明=五回コールド)

 四回裏2死三塁、かえつ有明は守備のタイムをとった。15点差をつけられ、厳しい試合展開。仲間を鼓舞しようと伝令の渕上博貴(2年)が、勢いよくベンチから走り出した。

 だが、渕上は途中で持っていたコールドスプレーを落としてしまった。マウンド上でどっと笑いが起きる。捕手の鳥海陸人(3年)は「ドジなんですよね。最後の最後、大事な場面で落とすなんて、あいつらしい。でも、こういうのも、かえつ有明っぽくていいかなって」。

 緊張がほぐれたのか、直後の打者を三ゴロにし、ピンチを切り抜けた。この試合で初めて、相手のスコアボードに「0」をつけた。

 五回表、ここで6点取らないとコールド負けになってしまう。「みんなが大好き。一秒でも長く、みんなと野球がしたい。このメンバーでする最後の大会だから」

 最後、というのにはわけがある。

 かえつ有明の野球部は今の3年生が入部した時点ですでに、今夏、廃部になることが決まっていた。もともと部員数が少なく、専用グラウンドもない。指導者も足りず、続けられないと判断された。

 だから、今の3年生を最後に入部は受け付けないつもりだった。でも、廃部を知った上で野球部に入りたいと、2年生4人が加わった。単独チームとして、11人で「最後の夏」に挑むことになった。

 12日の初戦の相手は都立の強豪・城東。雨でぬかるんだ土に足を取られ、先発した赤沢昊真(こうま)(2年)はストライクが入らない。一回途中から救援したエースの女屋佳蓮(かれん)(2年)も、相手の勢いを止められなかった。

 それでも、意地は見せた。

 四回表の攻撃。先頭の倉橋輝(あきら)(3年)がチーム初安打を放ち、暴投で二塁へ。1死後、打席に立った鳥海は無心でバットを振った。左越え二塁打で、唯一の得点に。「みんなの力で打てた。今までの人生で、一番の当たりだった」

 1―16の五回コールド負け。90分間の試合が終わると、鳥海はこみあげてくる感情を抑えきれなかった。「いつも泣いてばかりで。最後くらいは涙を見せずに終わりたかったけど……。楽しかったな」。照れ笑いしながら、また少し、泣いた。

 捕球が下手で、いつも球を後ろにそらしてばかりいた。高校最後の試合では、体全体で受け止めて、捕逸はゼロ。この日で見納めの「KAETSU」とかかれた真っ白のユニホームは、泥だらけだった。=JPアセット江戸川(野田枝里子)

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