国際的な紛争が相次ぐ中、国際通貨ユーロの立ち位置はいまどうなっているのか。

世界的なドル離れで、国際通貨としてのユーロの存在感が高まるかといえば、そう単純な話ではないようだ(写真:bonbon/PIXTA)

ロシアのようにアメリカとの間で対立関係を深める新興国を中心に、いわゆる「ドル離れ」の動きが進んでいるといわれて久しい。国際通貨基金(IMF)が公表する「外貨準備の通貨構成統計」(COFER)を参照すると、世界の外貨準備に占めるアメリカドルの割合は、最新2023年12月期時点で58.4%と、3四半期連続で低下した。

ドル離れでもユーロの存在感高まらず

欧州を中心にロシア、トルコ、新興国のマクロ経済、経済政策、政治情勢などについて調査・研究を行うエコノミストによるリポート

他方で、準備通貨としてアメリカドルに次ぐ位置づけにあるユーロの割合は20.0%と、前期(19.6%)からわずかに上昇した。とはいえ、近年のユーロの割合は20%前後で推移しており、ユーロの準備通貨としての存在感が高まったとはいえない。また、一部で期待が高まる中国人民元も、その割合は2.3%と日本円(5.7%)の半分以下に過ぎない。

つまり、近年のドル離れは、確かに外貨準備の多様化を促したが、アメリカドルに代わる国際通貨の台頭にはつながっていない。アメリカドルの基軸通貨としての存在感は、まだまだ揺らいではいないといえる。一方で、ユーロも万年2位の座に甘んじている。欧州中央銀行(ECB)はユーロのさらなる国際化を目指しているが、成果は出ていない。

2022年以降に強化されたロシアに対する制裁措置も、ユーロの準備通貨としての魅力を削いだ可能性がある。欧州連合(EU)はアメリカと歩調を合わせて、ロシアによるユーロの利用を制限した。実際にロシアなどは、安全保障上の理由からアメリカドルに代わる準備通貨としてユーロに期待を寄せていたが、そうした思いは打ち砕かれたことになる。

ユーロという国際通貨のプレゼンスは、今後もEUを核とする欧州経済と、欧州と関係が深い中東・アフリカの近隣諸国に限定されるのだろう。その欧州、特にEUの中でさえ、ユーロに対してネガティブな姿勢を堅持する国が少なからず存在する。その代表的な存在が、人口3700万人を誇る中欧の大国、ポーランドである。

ポーランドはEUに加盟して、今年で20年となる。本来、EUに加盟した国は、可能な限り早くユーロを導入することが義務付けられているが、ポーランドはいまだにユーロ導入を拒否して、独自通貨ズロチを維持している。またポーランドだけではなく、チェコやハンガリー、さらにデンマークやスウェーデンもユーロ導入を拒否している。

そのうちデンマークは国民投票の結果、ユーロ導入が国民によって否定されたことがEUから尊重され、正式にオプトアウト(適用除外)が容認されている。スウェーデンでも国民投票でユーロ導入が否決されたため、実態としてオプトアウトが準拠されている。一方、ポーランドを含む中欧3カ国の場合、EUはオプトアウトを容認していない。

しかし、中欧3カ国は独自通貨を維持し続けている。2010年代前半のユーロ危機を経てユーロに対する疑念が強まったことや、民族主義的な政権の下でEUに対し距離をとる動きが広がったことなどが、その主な理由だ。また独自通貨を維持することで、通貨政策や金融政策の自律性を確保したいという現実的な理由もある。

具体的にいえばEUは、加盟国の財政政策に対して、安定・成長協定(SGP)の下、強い制約を課している(例:財政赤字は対GDP<国内総生産>比3%まで)。そのため中欧3カ国は、ユーロ導入を拒否し、景気刺激の手段として通貨政策や金融政策の裁量を維持してきたわけだ。

ユーロ導入への意識は変わってきた?

とはいえ、既往の高インフレもあり、各国のユーロ導入への意識は変わってきたようだ。

EUはユーロ未導入国を対象に、ユーロに関する世論調査を定期的に行っている。この調査によると、最新2023年時点では、ポーランド国民の53%がユーロ導入に賛成し、反対は40%台前半にとどまった。コロナショック前の2019年時点では賛成が46%、反対が51%だったことに比べると、国民はユーロ導入に前向きとなっている。

ポーランドでは、ウクライナ情勢の緊迫化で親EU機運が盛り上がり、それが2023年末の新政権の成立につながったという経緯がある。この流れの中で国民のユーロ導入に対する意識も強まると期待されたが、現地メディアが4月初めに報じたところによると、7割近い国民が依然としてユーロ導入に反対という独自の調査結果が出たようだ。

新政権支持者でも52%がユーロ導入に反対

興味深いのが、この調査では反EU派の前政権の支持者のみならず、親EU派の新政権の支持者の半数が、ユーロ導入に否定的だという事実である。具体的には、新政権の支持者のうちユーロ導入に反対する回答者は52%に達したようだ。この調査からは、ポーランド国民の間に、ユーロに対する否定的な評価が広く根付いている印象を受ける。

いずれにせよ、欧州委員会の調査と現地メディアの調査では、ユーロ導入に対する国民の意識が異なる結果になった。この事実は、少なくともメガトレンドとしては、ポーランド国民が抱えるユーロに対する不信感が根深いままであることを、よく物語っている。ユーロ導入に対するポーランド国民の意識が追い付いていないともいえそうだ。

こうした状況に鑑みれば、かつてEU大統領も務めた生粋の親EU派であるトゥスク新首相とはいえ、ユーロ導入に向けた動きを加速させることはできないだろう。自らの支持者の中にもユーロ導入に慎重な声がある以上、その声に配慮しなければ、反EU派に政権を奪い返され、ポーランドで再び反EU色が強まる事態となりかねないからだ。

なおこうした状況は、ポーランドのみならず、チェコやハンガリーでも似たようなものである。資産防衛の手段としてユーロ紙幣は持っているが、一方でユーロへの不信感もぬぐい切れず、自国通貨としてユーロを導入することに躊躇し続ける。こうしたアンビバレントな状況が、今後もチェコやハンガリー、ポーランドで続くことになるだろう。

2023年1月、クロアチアがユーロを導入した。ブルガリアも早ければ2025年にユーロを導入すると見込まれている。ルーマニアも2029年までのユーロ導入を目指しているが、具体的な手続きには至っていない。したがって、2025年にブルガリアがユーロを導入した場合、それを最後にしばらくユーロ圏拡大の動きは止まると予想される。

国際通貨としてのユーロに頭打ちの気配

ユーロは確かにアメリカドルに次ぐ第2の国際通貨だが、その利用は欧州とその近隣の経済圏に限定されているという意味で、ユーロはアメリカドルに比べて地域色が強い国際通貨である。安全保障上の理由からドル離れを図る反アメリカ意識が強い新興国にとっても、EUがアメリカと対ロシア制裁で協調したことで、ユーロの魅力は削がれたといえよう。

またその欧州の中でさえ、ポーランドのように、ユーロ導入に対して否定的な声が根強い国が存在する。言い換えれば、EUそのものが拡大するとしても、ユーロの国際通貨としての伸びしろは、もうほとんどないのではないだろうか。ポーランドのユーロ導入に対する慎重な民意は、その可能性を色濃く物語るものだといえそうだ。

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