北陸新幹線の敦賀-新大阪間について協議する与党整備委員会は、年内最後の会合で、京都市内を通過するルートの選定に至らず、2025年度中としていた認可・着工がなくなった。
委員会終了後、西田昌司委員長は福井テレビの単独インタビューに応じ、市民感情への配慮から、あえて案を1つに絞らなかったとし、まずは財源や環境、水の問題の解決に注力するとした。最大のポイントとなる財源問題については、「国策」として国が主体的に負担すべきとした。
Q.「小浜―京都ルート」詳細ルートを一つに絞ることを断念した背景は―
元々は、三つのルートから一つのルートを今年に決め、詳細設計、環境影響評価等をして最短で再来年の3月には工事することを目指していたが、それはあくまで最短の話。着工5条件というのがあり、最大の難関は、地元がちゃんとオッケーを言ってくれるということ。ところが、委員会で地元から聞き取りをしたところ、京都府や京都市の方では、知事や市長もそうだが、府民や市民に北陸新幹線についての情報が正確に届いていない。むしろ不安をあおるような報道や運動があった。それから、小浜にとっては京都と20分以内でつながるのでいいのだが、京都は“元々サンダーバードで北陸とつながっていたじゃないか”というのがあり、それなりにサンダーバードも便利だったので、“新幹線がどうしても欲しい”という府民感情、市民感情はない。そういうこともあり、はっきり言って関心が薄い。
そんな中、財源について、JRの分を除き国と地方が2対1で負担するということになっているので、そんな大金を負担できるのか、というのが一番にある。同時に、工事の際の残土や水、交通渋滞などの懸念に対し、これで大丈夫だという答えがないので、ぜひ(新幹線の整備を)やって欲しいという意見にならず、むしろ不安を解消してくれなくちゃ困るという意見になる。それは当然の話。一番大事な地方負担については、これまでの形式ではとても無理なので、国が、JRも含めてしっかりと負担をすること。便益に応じて地方が負担をするのは仕方がないとしても、それ以上に出せというのは難しい。その答えがない以上、ぜひ(新幹線の整備を)お願いします、とはならない。そうなると、今年もしルートを決めても、途中でノーと言われてしまったらそれで終わってしまう。それは最適解ではなく、むしろ早く工事をして完成させるためには、地方の財政負担の問題や、残土や水の問題も含めてしっかりとした回答を用意した上で、地元に安心してもらえるようにする必要がある。当初は、それを同時並行で進めるつもりだったが、それでは不安が残るまま工事が進められることへの不安と不満が高まってしまい、京都の場合は“北陸新幹線そのものに反対”という勢力もあるので、その思う壺になる。そうなると、早く決めたようで実現できなくなるという最悪の事態になるので、それを避けなければならない。
Q.急がば回れということか―
そういうことになる。まずは、課題を解決しながら地元の了解を得ることで、むしろ工事を早く進められるようになる。「まずは財源や環境、水の問題をしっかりと解決すべき」というのが今回の中間報告の内容。正しい情報が府民や市民、府知事や市長に共有されていないと感じた。特に水や土の問題については、トンネルを掘ってしまうとそれだけで水が枯れるのかと心配する人もいるが、京都盆地には琵琶湖と同じくらいの水が溜まっているといわれている。その豊かな水を、トンネルを掘って枯らしたり汚したりしたらどうするんだと言われるが、仮にそういう事だとすると、琵琶湖そのものにもしトンネルを掘ったらどうなるか、というと、おそらく水は枯れないし汚れもしない。同様に、水のある所にトンネルを掘るのは、規模からすると細いホースを入れるようなもので、ほとんど環境には影響がない、というのが専門家の科学的知見に基づく意見。そういう事が伝わっていない。なので、科学的知見を共有してもらうことをしっかりとやらなければならない。
Q.中間報告に含まれた、小浜駅の着工準備予算の増額が盛り込まれた経緯は―
今回、3つの案のうち、八条通りに東西に駅を作る、いわゆる「東西案」を除外した。地下水は北から南に流れているところを、東西に長い距離、地下に壁を作ることになるので、東西案は当初から、水の問題で難があると言われていた。京都駅の南側の八条通りをオープンカットで工事をすると、通り自体が使えなくなってしまうので、交通渋滞の話も含めてかなり難点がある案だった。環境面や技術的な問題を考えていくと、南北案や桂川案の方は、同じ地下に作るにしても、南北の水を分断することにはならないので、まずは京都が一番心配している、水の分断がある東西案だけはないだろうということで、除外した。
Q.工期が長いというのも理由か―
それもあるが、一番はやはり水の問題。南北案や桂川案では、そういったリスクはかなり収まる。
Q.当初から南北案が有利だと聞いていたが、京都駅の工期が20年と短いということだった。ただ今回、南北案に決めるに至らなかったのは、やはり京都に配慮したのか―
そういう事になる。仮に南北案に決めてしまうと「府民や市民の懸念に耳を貸さずに1つの案に決めたのか、こんな強引なやり方はけしからん」と、間違いなく反対派の人は言う。そういう報道がどんどん流されることによって、本来は反対してない人でも、「そんな決め方はひどい」と変な世論が醸成されてしまうので、それは得策ではない。むしろ、地元の京都の方々が、これなら安心だと納得してもらえるような情報提供と世論醸成をしていくためには、一つの案に決めずに、市民に寄り添って進めているという姿勢をとる方が、実際は早くできる。今年中に1つの案に決めてしまったら、1年3カ月後に工事できるように思うかもしれないが、それは府民、市民がオッケーと言えば、の話。 それがないまま、この案が良いと決めてしまうと、もう聞く耳を持たないのかという話になってしまう。だから、そういうことにならないように、 しっかり府民、市民の話を聞いて進める。それから、行政が1番不安になっているお金の問題については、国が責任を持って手当てしていくという仕組みをセットにして納得していただけませんか、と提案をする方が、実は早くできると思う。
<後編>では関西のトップから懸念の声への受け止めなどについて聞いています。
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