記者会見する経団連の十倉雅和会長(9日、東京都千代田区)

経団連の十倉雅和会長は9日の記者会見で、2040年を見据えた政策提言「フューチャー・デザイン2040」を発表した。現役世代の社会保険料負担の増加を抑え、個人消費を伸ばすためにも、税・社会保障の改革を急ぐ必要があると訴えた。

提言は十倉氏の25年5月までの任期の集大成としてまとめた。改革の実現で日本経済は40年度、名目GDP(国内総生産)を1000兆円に伸ばせると強調した。

十倉氏は税と社会保障を巡り、政府や与野党に「逃げずに真正面から議論してほしい」と求めた。世界で生じる分断の背景には経済格差があり「分配を無視した成長はあり得ない」と話した。「分配を賃上げだけでなくもう一段進める必要がある」と語り、税と社会保障による再分配の重要性を説いた。

人選を進める後任の会長にも「基本的な考え方は引き継いでほしい」と触れた。「社会性の視座にたって正論を言い続ける経団連であってほしい」と述べた。

提言で税と社会保障の一体改革を重視したのは「成長と分配の好循環」の実現へ個人消費を拡大させたいとの構想があるからだ。少子高齢化で膨らむ社会保障費の財源が社会保険料に偏れば現役世代の負担が大きくなり、消費の伸びが抑えられると問題視した。

提言では経済力に応じた「応能負担」を徹底し、所得や資産に対する富裕層への課税強化で34年度までに5兆円規模の財源を確保し、社会保険料の負担率が上がらないようにする方策を描いた。財源が足りなければ消費税増税や、法人税など企業負担も検討対象にする。

国内投資の拡大に向けては脱炭素の進展と国際競争力の強化を両立するために原子力の最大限の活用を打ち出した。40年代に高温ガス炉や高速炉、50年代に核融合炉を実装する工程表を示し、次世代革新炉の建設を急ぐよう提起した。

「科学技術立国」を支えるために大学の研究力の抜本的な強化も提案した。

従来の「選択と集中」が研究力低下を招いたとの見方を意識し、科学研究費助成事業(科研費)の早期倍増や国立大学への運営費交付金の拡充を明記した。国の「10兆円ファンド」によるトップ校支援だけでなく裾野を広げる取り組みを促す。

人口減少下で地域経済が成長するには都道府県の枠を超えた広域連携が要ると主張した。かつての道州制のような行政単位の線引きにはこだわらない「新たな道州圏域構想」を掲げ、一定の地域ごとに大学の再編や交通網の整備などを促進する。

労働時間ではなく成果で処遇を決められるような労働時間法制の見直しも提唱した。既存の裁量労働制や高度プロフェッショナル制度は対象業務の限定が厳しいことから、より幅広い労働者を対象にした制度づくりを訴えた。

提言内容を踏まえて、日本経済の将来予測を試算した。23年度に590兆円強だった名目GDPは現状維持なら40年度に735兆円になるが、生産性の向上や社会保険料負担の抑制があれば1006兆円に届くと示した。

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