10月の衆院選後初の本格的な国会論戦の場となる臨時国会が28日、開幕する。初日は手続きが主で、開会式や石破首相の所信表明演説は29日に行われる。
翌週から各党による石破首相への代表質問が行われ、12月4日と5日には、石破政権となって初の一問一答形式での予算委員会の本格論戦が実施される。
この国会の焦点は様々あるが、最大の注目は、「年収の壁」の見直しをめぐる議論、そして「政治とカネ」の問題に決着を図るための政治資金規正法の再改正だろう。
これらの議論が予算委員会や政治改革特別委員会などで行われる見通しだが、その委員長は与党過半数割れに伴い野党が務めている。それによって国会審議がどのように変わるかも注目となる。
「103万円」「106万円」「130万円」年収の壁の議論は財源で難航も
目下、国民の関心が極めて高く、政策をめぐる議論の中心となっているのが「年収の壁」の見直しだ。
この国会でも当然、焦点となるが、政府ではなく国民民主党が旗振り役となっている上、税と社会保険の壁が入り組んでいることもあり、どのように議論が展開されるのか見通せない部分が多い。
国民民主党が掲げた「103万円の壁」の見直し=基礎控除額の178万円への引き上げをめぐっては、その政策目的を大きく2つに分けて考えることができる。1つは「働き控えの解消」、もう1つは控除拡大による事実上の「大規模減税」だ。
ただ、働き控えに関しては、103万円の壁と特定扶養控除の引き上げにより、学生などの労働制約は解消される一方、配偶者の扶養に入っているパート主婦・主夫などの労働制約は解消されない。むしろ社会保険料の壁である「106万円」「130万円」の壁の方が障害となっているのが実態だ。
しかしこの社会保険の壁の見直しは、年金制度とも関わるため、複雑な議論になる。
国会でも、予算委員会で議論になるのは当然として、税は財務委員会や総務委員会、社会保障は厚生労働委員会など、議論の場も分散することが想定され、どこまで踏み込んだ論戦になるかは見通せない状況だ。
また、立憲民主党が提出している130万円の壁による手取り減少を補填する法案の扱いも注目ポイントの1つになる。
一方、103万円の壁見直しを減税という視点で見れば、地方自治体からも懸念の出ている財源の問題が最大の論点になる。
国民民主党が主張する178万円への引き上げでは7~8兆円の減収が必至とされ、議論は難航する見通しだが、国会では旗振り役の国民民主党が答弁に立つわけでもなく、困惑している側の財務省や総務省が答弁する側となる。
こうした構図の中、各党がどのような視点で質疑を展開するのかも注目される。実質的な調整の舞台は自民・公明・国民民主3党の協議になるが、公開の国会の場でのわかりやすい議論にも期待したい。
「政治とカネ」政治資金規正法の再改正はどこまで合意できるか
一方、先の衆院選で自民党が敗北し与党過半数割れの最大の原因となった「政治とカネ」の問題は、最大の焦点になる見通しだ。
自民党がとりまとめた改革案で、先の通常国会では見送った政策活動費の廃止まで踏み込んだのは、選挙結果が引き起こした大きな変化だと言える。ただ、野党側は、プライバシーや外交上の機密に関わる支出など一部非公開にする部分について疑念を示していて、調整の行方が注目される。
一方、企業団体献金の禁止については、国民民主党を除く野党側が禁止を主張しているのに対し、自民党は慎重姿勢で、最大の対立要素となっている。自民党としては企業団体からの献金は、これまで党の強さを支えてきた大きな原動力であり、禁止されれば多くの事務所スタッフを養う余力もなくなるため死活問題だ。
ただ、野党としては、これがカネのかかる政治の根源と捉え攻勢を強める構えだ。さらに実現できない場合は、2025年の参院選の争点としたい思惑もあり、議論の行方が注目される。
また、旧文通費の扱いや政治資金パーティーの是非についても改めて議論になる。そして政治資金規正法を扱う政治改革特別委員会は、立憲民主党の渡辺周元防衛副大臣が委員長となった。審議の主導権を野党が握る一方、成果を出せなければ野党側の責任も問われるという構図の中で、この国会でどこまで再改正に合意できるか、予断を許さない展開となる。
少数与党で野党主導の審議に? 問われる石破内閣の力量
そして、この政治改革特別委員会もそうだが、今回、多くの委員会の委員長ポストを野党側が握ったのも、今国会の大きな変化だ。
特に予算委員長には立憲民主党の安住前国対委員長が就任した。
ベテランの安住氏は、長年にわたり国対委員長として、与党側を厳しく批判し揺さぶりをかけてきた。その安住氏が予算委員長として、野党多数の委員会をどのように運営するか、与党側からは警戒する声があがっている。
一方で、国会審議に詳しく、与党とのパイプもある安住氏だけに、本来は行司役の委員長として乱暴な委員会運営は行わないとの見方もあり、その軍配さばきに注目が集まる。
その安住委員長のもと、初入閣組も含め、石破政権の閣僚は初めての本格論戦に臨む。これまでにも不安定な答弁やスキャンダルで数々の閣僚が辞任に追い込まれるなどしてきたが、与党過半数割れの中で、立場はより厳しくなっている。野党主導の審議が想定される中、石破首相本人も含め、まさにその力量が試される場となりそうだ。
国会の景色は変わるのか
立憲民主党の野田代表は、この与党過半数割れの国会について、公開の場で熟議を行い、一致点を見出す政治へと変えていく場だと訴えている。そのさきがけとして、政治改革をめぐる各党の協議会が全面公開という異例の形で行われた。それだけでも国会に新しい景色が広がったとは言える。
ただ、現時点においては協議会でも各党がそれぞれの主張を述べるにとどまり、熟議と一致点を見出すプロセスが機能するかはまだ見えていない。ましてや正式な国会論戦の場でそれを行えるのかは不透明だ。
理事会などがどのように機能するかも含め、国会が大きく変わるチャンスであると同時に、何も変わらなかった場合、国民の間に失望が広がることも考えられる。物価高も含め暮らしに関わる課題も多い中、期間の短いこの臨時国会でどのような変化が見られ、それが来年の通常国会と参院選にどのようにつながっていくか、各党の論戦の中身に注目していきたい。
(フジテレビ政治部デスク 髙田圭太)
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