自民党・立憲民主党のダブル党首選で論戦が続く。「BSフジLIVEプライムニュース」では識者を招いてFNNの世論調査をもとに分析し、新党首のもとで行われる見込みの総選挙の見通しなどについて議論した。

候補者の多すぎる自民、地味すぎる立憲

竹俣紅キャスター:
8月24日の前回調査と、ダブル党首選告示後のFNN世論調査の政党支持率の比較。自民党の支持率は前回から2.4ポイント減り30.6%、立憲民主党は前回より0.5ポイント増え7.5%。

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先﨑彰容 日本大学危機管理学部教授 思想史家:
危機感のある自民党は大々的に躍動感のある選挙ポスターを出し、実際に若手も2人出ている。特に小林鷹之さん、推薦人を見てもいいメンバーが揃う。ただ前回総裁選の4候補のように数が少なければ候補者ごとの差異にメリハリがつくが、今回はそれが見えない。これがいいことか悪いことか、まだ評価はできない。立憲は厳しく言えば昔の人が出て、求心力を維持できない人、あとは女性を、というのが一般の感覚だと思う。そこに野田佳彦さんが出て戦える期待が出たのでは。

山口二郎 法政大学法学部教授:
実際に自民総裁選の蓋を開けてみたら候補者が多すぎ、比較して考えることが難しい。次を託す政治家が絞られてこない当惑が数字に表れている。ただ、そのように人気者がどんどん出てきてテレビで躍動する中、立憲は現状維持でも良しとしなければ。また先﨑さんと同じく、野田さんが出たことは関心をキープする非常に大きな要因と思う。政権交代という言葉に多少現実味が出てきた。昔の民主党のような立ち位置を模索しているのが現状であり、党内の右と左で喧嘩する余裕はない。

反町理キャスター:
立憲代表選の立会演説会や候補者討論会は、討論ではなく誰が一番上手に自民党の批判をするかの弁論大会。番組に皆さんを迎えたとき、自民のように候補者が互いに質問し合うことを嫌がる人もいた。

山口二郎 法政大学法学部教授:
政党の成り立ちが違う。自民党は元々幅広い政党で、かつ総裁イコール総理、権力だから戦いのモチベーションが違う。立憲が自民を批判し挑戦するときの基本的な政策が共有されているのだと理解してほしい。

先﨑彰容 日本大学危機管理学部教授 思想史家:
映像を見ても、立憲の代表戦は極めて地味。そこらの会議室でやっているようで、街頭に立つときの横断幕も含め全て旧態依然としている。自己プロデュースの嗅覚が本当にないのでは。候補者4人でどれだけ大きな演劇を演じられるか。面白ければ必然的に注意が向く。

山口二郎 法政大学法学部教授:
べつに自民党を応援はしないが、国際舞台などで経験を積んできた政治家はおのずとオーラを持つ。演出というより役者の力量の違いは残念ながらある。あまり無理して背伸びしない方がいい。

自民・立憲ともに高齢者ばかりが支持する“閉塞感”

反町理キャスター:
FNNの最新の世論調査で自民・立憲支持者の年齢分布を見ると、どちらも同じく20〜30代など現役世代が少なく、70代以上の比率が異様に高い。

山口二郎 法政大学法学部教授:
リベラルは基本、団塊世代が中心。自民党の方は伝統的な保守層で、これも昔から高齢者に多い傾向がある。30代はまさに失われた30年そのものの反映で、政治で世の中を良くする希望をそもそも全く持たない世代と感じる。7月の東京都知事選でも現れたが、政既成の勢力、政治家、政党そのものを罰するようなことが若い人の政治参加の動機のようになっている。年寄りが元気な間に一度ちゃんと現役世代のための政策をいくつも実現して、成功体験を味わってもらわないといけない。

先﨑彰容 日本大学危機管理学部教授 思想史家:
従来はリベラルと保守の対立で、リベラルが日本の閉塞感を壊し打破しようとしてきた。それがなかなか通じなくなっている。20〜30代の中で、例えばYouTube等で論客とされているような人たちがやっていることは総じて揶揄であり嘲笑。江戸末期、幕府を倒せないが社会がうまくいかないときには狂歌が歌われたことと同様。我々が簡単に「無党派層」としてしまうところにはいろんな感情が渦巻いている。

反町理キャスター:
自民や立憲の党員にだけうけることを言ってきた人が、総選挙では数千万の無党派層を吸い込まなくてはいけない。仕組みに無理があるのでは。

山口二郎 法政大学法学部教授:
現役世代に対して政策的にリーチする戦略を立て取り組むことは特に立憲に必要。非正規労働者やシングルマザー、取り残された人たちを代弁する意味での演出は本当に大事。

先﨑彰容 日本大学危機管理学部教授 思想史家:
今の若者たちはなにも白けているわけではなく、活力ある人たちは経済的な成功を求める方向に行っている。ただ成功するのはごくわずか。確かアメリカの学者が言っていたが、「トランプを支持すれば、自分がアメリカ社会を変えている手触りが得られる」ことがトランプを動かしている。何によって自分たちが生きている手触りを得られるのか。日本で自民もそこにアクセスできていないと思うが、今まで立憲が失敗してきているのは、弱者のことを全面的に掲げても論点として一般の国民に刺さらず支持が得られないから。戦略を練り直して人に刺さる言葉を使っていかないと。

竹俣紅キャスター:
FNN世論調査での自民党総裁選候補者の支持率。石破茂氏が前回の調査から4ポイント伸ばし25.6%でトップ。小泉進次郎氏、高市早苗氏が続く。自民党支持層に限れば小泉氏が29.4%でトップ、続いて石破氏、高市氏。

山口二郎 法政大学法学部教授:
冷遇されてきた人が自民党全体に逆風が吹くときに浮かび上がることは過去にもあった。石破さんは冷遇されても正論を言ってきたイメージがある。改革してもらおうという人が一番多いのは当然だろう。

反町理キャスター:
野党側から見たとき総選挙で戦いにくい・戦いやすいのは誰か。

山口二郎 法政大学法学部教授:
戦いにくいのは石破さん。自民党の悪い部分を批判してきたイメージがある。戦いやすいのは正直言って高市さん。初の女性宰相として人気も上がるだろうが、候補者の中では一番の右派。自民が右に寄れば、いわゆる中間層・無党派層の取り込みに少し展望が開けるかと思う。

先﨑彰容 日本大学危機管理学部教授 思想史家:
閉塞感が漂う中で政党政治家のような人がカネに汚いということは人々の心を非常にナーバスにし、社会全体を不穏なものにしていく。これだけ閉塞感が漂う中で今回政治とカネの問題が出てきたことは、総裁が誰になるかを別にして、日本社会全体が非常に危ういところに来ている表れと思っている。我々の中にたぎる情念みたいなことを政治が言葉で拾っていかないといけない。一見ポピュリズム風に見えるものが意外と日本社会にとっては大事。

次期総選挙での政権交代は現実的ではない

竹俣紅キャスター:
FNN世論調査の質問「自民党総裁選で議論してほしい政治課題」への答えは、物価高・賃上げ対策が最多で46%。以下、年金・医療・介護、子ども・子育て支援と続き、政治とカネは17.6%。

先﨑彰容 日本大学危機管理学部教授 思想史家:
物価高も子ども・子育て支援も、結局のところ格差問題。各候補者が規制緩和に対してどう考えているか見る必要がある。

山口二郎 法政大学法学部教授:
15年前、小泉純一郎政権が進めた構造改革で地方が疲弊し格差・貧困問題が発生していた。この人たちを支える路線で政権交代を起こせた。進次郎風の能天気な規制緩和がもう一度出てくれば、野党として戦える。

反町理キャスター:
経済政策では、例えば茂木敏充さんが防衛増税や社会保険料の増額はやらない、財源はあると言った。

先﨑彰容 日本大学危機管理学部教授 思想史家:
これは一つの茂木さんの国作りの方針。だが今回全候補者に感じるのは、時代の空気を踏まえながら「所得倍増」や「田園都市国家構想」といった国民が注目し国の空気を変えるようなキャッチフレーズを強烈に掲げる力が弱いこと。

反町理キャスター:
一方、政治とカネの話では公認問題がある。派閥からキックバックをもらったいわゆる裏金議員を公認すべきかどうか。世論調査では「非公認」が51.6%、「説明責任を果たせば公認」が39.9%、「公認」が6.3%。

山口二郎 法政大学法学部教授:
野党はこの問題を当然追及しなければいけないし、次の衆院選でいわゆる裏金議員のところに野党統一候補をぶつけ、カネを巡る自民党と野党の立場の違いを可視化することが必要。

竹俣紅キャスター:
次期衆院選での政権交代の可能性について。衆議院の定数は465で政権交代に必要な過半数は233だが、立憲民主党の擁立状況は8月13日時点で約190人。

山口二郎 法政大学法学部教授:
選挙に向けて200を超えると思うし、国民民主との連携を考えれば一応過半数に近い候補者は立てられると思うが、一度に政権交代が起こるなどと甘いことを考えている人は立憲にもいないと思う。階段を上っていくイメージ。

反町理キャスター:
共産党との関係含め、他党との候補者調整などは。

山口二郎 法政大学法学部教授:
仰々しく共通政策を作るようなことではなく、勝つ可能性を最大化するための協力の形をドライに考えるべき。

先﨑彰容 日本大学危機管理学部教授 思想史家:
野党は成功体験を積み重ねていくしかない。おそらく野田さんが象徴しているのは清潔さ。一般の人が政策に違いはないと考えたとき、そこが前面に押し出されてきて支持率に出ることはあるのでは。自民は自分たちが大きな枠組みを作ること。その中で全員が丁々発止で議論すれば支配できると思う。

「BSフジLIVEプライムニュース」9月16日放送

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