当選を喜ぶ支持者の声に、ガッツポーズで応える杉本和範氏=福井県小浜市で2024年7月21日、高橋隆輔撮影

 今年7月、20年ぶりに選挙戦となった福井県小浜市長選で、元市議の新人、杉本和範氏(45)が、現職の松崎晃治氏(66)を破って初当選した。杉本氏は県外出身で強固な地盤もなかったにもかかわらず、4期16年市長を務めた松崎氏を破った選挙結果は同県内の政界に驚きをもたらした。勝敗の分かれ目を取材すると、4度続いた無投票が、大小さまざまな影響をもたらしていた。【高橋隆輔】

 「子供を遊ばせる場所も少なく、今の小浜に満足はしていない。杉本さんになれば何か変わるかもしれないと思った」。子育て中の20代女性は、杉本氏に投票した理由を語る。松崎氏に強い不満があった訳ではないが、変わらない街へのもどかしさが、新顔への期待に変わった。

 4期目だった松崎氏だが、市長選では初当選時から一度も選挙をしないままだった。この間、長男の雄城氏(31)が県議に当選。松崎氏も市長就任以前には県議会議長まで務めており、父幸雄氏から3代にわたって議席を獲得してきた。

「新幹線が通る頃には自分はいない」

 多選や世襲への批判が一定程度ある中、松崎氏は選挙戦で「北陸新幹線の小浜京都ルートを早期実現できるのは私だけ」と訴え、差別化を図った。しかし、同市への延伸は早くても20年以上先と見込まれることなどから市民の反応は冷ややかで、その他の実績や政策をかすませた。杉本氏を支持した40代女性は「演説会の会場では、お年寄りから『小浜に新幹線が通る頃には自分はもういない』という冗談をよく聞いた」と明かす。

 選挙戦のブランクは、SNSを活用する新しい選挙戦への対応にも表れた。松崎氏の後援会幹部は「杉本氏の集会にはそれほど人数が集まっておらず、安心していた。しかし、実際にはLINEでつながり、多くの人が集会を見ていた」と戸惑いを口にする。杉本氏も所属する地域政党「ふくいの党」の山岸充県議(34)は「SNSは『使わなければマイナス』という認識」と、「必修科目」であることを強調した。

 また、杉本氏は新人の強みを生かし、立候補を表明した2月から、毎日のつじ立ちで浸透を図った。ふくいの党の選挙では、つじ立ちは常とう手段で、山岸県議は「現職がいる中で新人に投票してもらうには、理由を与える必要がある」と話す。陣営スタッフの女性は「選挙に行ったことがないのに、つじ立ちを見て『あの人は頑張っている』と言って投票してくれた知人もいた」と明かした。

 一方、松崎氏は自民党の推薦を受けていた。小浜市は裏金問題で党員資格停止処分中の高木毅衆院議員(68)の選挙区でもあるが、有権者や関係者はこの点については一様に「選挙結果と裏金問題は無関係」と断言した。

 松崎氏の前に小浜市長を務めた村上利夫氏(92)は「市民は新しい選択肢を待ち望んでいた」と説明。松崎氏を支援した佐野達也市議は「候補としての良し悪しではなく、『もういいんじゃない』との声が想像以上だった。一度でも選挙をしていれば少しは違ったかもしれないが」と悔やむ。

 当選した杉本氏は、新しいツールを使いこなし、古典的な手法でも若さや行動力をアピールした。根気や体力、発信力はいずれも政治家に求められる資質でもあり、選挙は市民がリーダーを選択する、重要な機会であることは間違いなさそうだ。

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