家族にも話せない「便もれ」の悩みを解消したい――。そんな思いで広島記念病院(広島市)が立ち上げた「排便機能外来」を訪ねる患者が絶えない。治療の幅を広げるため、病院は近く、心臓のペースメーカーのような刺激装置を用いた手術や、再生医療の治験に乗り出す。

 便もれは正式には「便失禁」という。無意識に便が漏れたり、トイレまで我慢できずに漏らしてしまったりする症状だ。肛門(こうもん)の筋肉が弱い、便自体が緩いなど要因は様々で、加齢や出産がきっかけとなった患者もいる。

 国内に500万人いるとされ、寝たきり状態の高齢者などを含めれば、さらに多くなるとみられる。

 一方、検査から診療までを担う医療施設は多くない。日本大腸肛門病学会によると、便もれ診療の多くは保険診療の対象外。リハビリなどは手間がかかる割に収益につながりづらく、「専門的に治療をできる医師が少ないのが現状」と説明する。診療のガイドラインができたのも2017年と、ごく最近のことだ。

 広島記念病院は20年春、完全予約制の「排便機能外来」(毎週木曜日、代表=082・292・1271)を開いた。中国地方でも数少ない専門外来だ。便秘の患者も受け入れ、管理栄養士が食事指導にあたる。

 新規の患者は絶えず、便もれに限っても今年3月末までに県内外の79人が受診した。女性が多く、年齢層は3歳~90代と幅広い。外来を担当する外科医の矢野雷太さん(46)は「涙を流しながら、『家族に内緒で来た』という方もいる」と切実な状況を明かす。

患者の8割 改善・回復

 便もれのある人を対象にした医療機器製造販売「日本メドトロニック」(東京都)の調べでは、家族にさえ打ち明けられない人の割合は、4人のうち3人。患者が悩みを抱えたまま孤立している実態を裏付ける。

 矢野さんによると、街中でも常にトイレを探していたり、できるだけ家で過ごしたりと、日常生活を送ることさえ困難な患者が多い。

 ただ、治療で便もれの量や頻度が減るだけでも「病院帰りに買い物ができた」「旅行に行けるようになった」と喜びの声が上がる。これまで約8割の患者の症状が、リハビリや投薬などで治ったり改善したりしたという。

 さらに治療における患者の選択肢を増やすため、病院は近く、心臓に使うペースメーカーのような刺激装置を尻付近に埋め込み、弱い電気刺激を与えて症状を改善する「仙骨神経刺激療法」を初めて採り入れる。同社によると、県内では10年ぶり2例目になるという。

 また、欧州のバイオベンチャーが主導する治験にも参加する。患者の大胸筋の一部を取り出して幹細胞に戻し、肛門の括約筋に打ち込むことで筋力を鍛える再生医療だという。

 矢野さんは「便もれは良くなる、と知ってもらいたい。症状が改善するだけでも、患者さんの人としての尊厳を回復することにつながります」と話している。(北村浩貴)

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