「私の視点」 一家綱邦さん(国立がん研究センター生命倫理部・部長)

 「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が今国会で改正された。同法が規制する「再生医療」は、様々な疾患・障害の治療や美容などを目的に、細胞を培養・加工して患者に投与する。同法の要は、再生医療の実施計画の作成を医療機関に義務づけ、その内容が安全か、科学的に妥当かを、国が認定する審査委員会(認定再生医療等委員会)が審査することだ。

 約10年運用されてきた同法の改正ポイントは、①これまで規制の対象外だったタイプの遺伝子治療(in vivo遺伝子治療)を対象にすること②委員会の審査を適正なものにするため、国が立ち入り検査できるようにするなど対策を強化することである。

 これは、科学的根拠の不明な医療が自由診療で行われていることへの問題意識に基づくようだ。「画期的な効果」などとうたわれる自由診療のがん遺伝子治療に、科学的根拠がなかったため、医療機関と患者・遺族との間で法的争いになった事例が、報道で知りうるだけでも複数ある。①の改正でそうした医療に法規制の網をかけることは適切だろう。しかし、肝心の網が機能していない恐れから、同時に②が求められた。

 筆者も関わった調査で、審査を経た計画に様々な問題があることが分かった。安全性の根拠が不明な計画、対象の疾患に専門性のない医師が担当する計画がかなりの割合で存在した。背景には、審査する委員会の問題がある。一部で、自由診療の医療機関と独立・公正な関係でない委員会が、計画を審査するというカラクリがあると推測された。

 さらに、治療後に有害事象が生じても、委員会への報告や因果関係の検証が適切になされていない恐れも全国的にある。また、多くのクリニックなどが「厚生労働省の承認を得た」かのような宣伝をするが、法の仕組みとして厚労省は承認を出す立場になく、虚偽・誇大広告となる。

 問題点は国会でも議論され、②の改正につながった。今後の施策が適切になることを期待したい。

 この法の下で現在実施されている再生医療計画の約98%は自由診療で、研究として行われるのは残り2%にすぎない。研究者が研究を重ね、その成果を「根拠のある治療」として実現しようと努力する傍らで、画期的効果を標榜(ひょうぼう)する自由診療が行われていることには矛盾がある。効果をうたう自由診療のリスクを重視し、そうした活動に対する規制をさらに強化すべきではないか。患者さんも高額な自由診療で行われていることの本質・根拠を見極めてほしい。

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