聴覚障害者(ろう者)が日常的に使う手話を言語に位置づけ、普及や理解の後押しを目的にした手話言語条例が今月1日、静岡県清水町で施行された。2015年に富士宮市で初めて制定されて以降、県内自治体では13番目。コミュニケーション手段として手話が法的に認められた背景には、当事者の思いを条例に反映しようと奔走した地元の手話サークルの存在があった。

 この手話サークルは1974年に設立された歴史を誇る「あゆの会」。代表の酒井てるさん(73)は設立の翌年に加わった最古参の1人だ。

 酒井さんによると、条例制定までのいきさつはこうだ。

 2022年11月、町議会議員(当時)から思いがけず、「手話言語条例の制定を町に求める」と聞かされた。「寝耳に水」の話に驚いたが、メンバー間で声を掛け合い、議会を傍聴しに行った。

 町側は前向きに検討する意向を示したものの、期待した条例制定へ向けた動きはすぐには始まらなかった。

 翌23年11月、今度は町が条例案を作成しているとの情報を耳にした。

 ろう者に条文を理解してもらうためには、まずはメンバー自身がしっかりと理解しなければならない。あゆの会は全国各地の事例を比較研究するなど勉強会を重ね、条例案作りに関与できるよう町に申し入れた。

 条例案の説明に来た町職員にもろう者の思いを条文に反映するよう直接訴え、メンバーの思いを込めた14件の意見を、町が募集していたパブリックコメントに提出した。

 会では手話の役割や言語として認められなかった苦難の歴史を踏まえた制定であることを前文に明記するよう強く要望してきたが、出来上がった条例には盛り込まれなかった。

 それでも、施策を推進するときは「ろう者等との協議の場を設ける」ことや事業者の役割として「手話の使用に関する合理的配慮やサービスを提供する」ことなどが書き込まれるなど、会側の意見が随所に反映された。

 会設立50周年の節目に条例施行が重なった。4月からは新たに小学生1人、中学生2人を含む仲間7人が加わり、メンバーは23人になった。

 条例は施行されたが、手話の普及や理解促進に向けた具体的な取り組みは緒に就いたばかりだ。酒井さんは「施策はまだ何も決まっていない。これから町と一緒に考えながら進めていきたい」と話した。(南島信也)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。