早期の乳がんに対する新しい治療法が昨年12月から保険適用になった。皮膚から細い針を刺してラジオ波という電磁波を流し、熱でがんを焼く方法だ。手術に比べて乳房の変形や傷痕が少なくて済み、患者への負担が少なくなると期待されている。 (熊崎未奈)  乳がんは女性のがんの部位別で最も多く、年間約9万人が診断される。がんが1センチ未満の早期段階であっても、根治を目指すには基本的にがんを切除する手術が不可欠だった。乳房の一部をくりぬくため、変形したり、傷痕が残ったりすることは避けられなかった。

◆直径2ミリの針を使用

 そうした中、研究が進められてきたのが、AMラジオと同じ周波数の電磁波を利用する「ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法(RFA)」だ。全身麻酔下で超音波画像を確認しながら皮膚から細い針を刺し、腫瘍にラジオ波を流す。ラジオ波から発生する70~100度の熱で腫瘍の周囲3~4センチを球形に焼く。がん細胞は正常の細胞に比べて熱に弱く、42度以上で死滅しやすい特徴がある。  使用する針は直径2ミリほど。傷痕は非常に小さく、乳房の変形も最小限に抑えられる。ラジオ波を流す時間は5~10分ほどで、手術室に入ってから1時間程度で終わる。入院は4~5日間で済む。  これまで20例以上のRFAを行ってきた岐阜大病院乳腺外科科長の二村学さん(60)=写真=は「切除手術に比べて患者の体への負担が小さく、乳房の形も残せるメリットは大きい」と話す。術後に皮膚のやけどや患部の痛み、腫れが出ることもあるが、おおむね1~2日で引くという。退院後は1~2カ月間、周りに残存する可能性のあるがん細胞を死滅させるために放射線治療を行い、再発を防ぐ。

◆専門医「定期検診を」

 岐阜市のパート女性(59)は昨年10月、乳がん検診で左胸に直径8ミリのがんが見つかり、今年2月末にRFAを受けた。術後は乳房に軽い腫れと痛みがあったが、痛み止めを飲まずに過ごせる程度。針を刺した痕はごく小さく、ほとんど見えないという。「手術だと胸の形が変わって趣味のプールに行きづらくなると思ったけど、これなら気にならない」と安堵(あんど)する。  RFAは2004年に肝臓がんで保険適用となった。乳がんについては、13年から国立がん研究センターを中心に、早期の患者を対象とした臨床試験が実施され、手術での切除の場合と再発率がほぼ変わらないことが分かった。安全性や有効性が認められ、昨年12月に保険適用に。費用は3割負担の場合、入院費などを含めて15万円ほどだという。  対象は早期の乳がん患者の中でも、20歳以上の女性で、腫瘍が一つのみで転移がなく、大きさが最大径1・5センチ以下であることなどが条件だ。二村さんは「腫瘍が大きいとラジオ波の熱が伝わりにくく、焼き切れないリスクがある」と説明する。  医師の技術も必要なため、治療を受けられるのは日本乳癌(がん)学会が認定した施設に限られる。4月上旬までに岐阜大病院など全国で25カ所が認められている。  手術による切除が主流だった乳がん治療の選択肢が広がった形だが、二村さんは「一番大事なことは早期発見」と強調する。がんが小さいうちに見つけられなければ、RFAは利用できず、乳房を残せる可能性も少なくなる。「命を守るためにも定期的に乳がん検診を受け、こまめに自己触診してほしい」と呼びかける。


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