動悸(どうき)や意欲低下、不眠など更年期症状に悩む女性のために、自身も苦しんだ経験があるがん免疫学者の女性がオンライン診療サービスを始めた。症状=表=を自覚しても受診しない人が8割との調査もあり、我慢した末、離職してしまう人もいるという。「適切な助言や治療を受けやすい環境にしたい」と願う。(中沢佳子)  事業を手がけるのは、沖縄科学技術大学院大(OIST)の客員研究員エリセーバ・オリガさん(52)=写真。母国ベラルーシで血液内科医をしていたが、知人の誘いで1996年に来日し、大阪大大学院で学んだ後、OISTや理化学研究所で研究を続けた。  44歳のころ、異変に襲われた。ひどいほてりやのぼせで、論文を読んでも頭に入らず、ものを覚えられない。「大好きな研究が、以前の1割ぐらいしかできなくなった。女性のキャリア形成が難しい研究者の世界で、仕事の評価につながる学会発表もできない。怠け者扱いされ、自分を責め、自信がなくなっていった」  母から聞いていた更年期を疑って治療法を調べたが、分からない。最先端分野の医療を研究している自負があっただけに、ショックだった。「妊娠や出産と比べ、女性の加齢に関する社会の関心は薄く、研究も進んでいなかった」  病院を訪れたが、1軒目は「ストレスが多いからでしょう」。2軒目は「年齢ですからね」。更年期の不調は自然なことで治療は不要といった空気も感じた。3軒目で、じっくり話を聞いて「一緒に考えて治療しましょう」と言ってくれる医師に出会えた。  更年期だからと門前払いしない医療が必要と考え、オリガさんは2022年に起業。昨年12月、オンライン診療サービス「ビバエル」を始動した。  まず、看護師などが症状や悩みを聞き取り、必要に応じて医師の診察、薬の処方をする。料金はカウンセリングのみや、薬の処方までなどプランで異なり、2990~1万2千円。沖縄や東京、大阪などから40~50代の35人が利用する。「頑張って根性で乗り切ろうとするほど悪化する。自分に厳しくしがちな女性たちに、できないことがあっても自分を許すということを伝えたい」とオリガさん。  厚生労働省の22年の調査で、更年期障害の診断や自覚症状がある女性は、40代で31・9%、50代は47・4%。ただ、症状を自覚しても、8割が受診していない=グラフ。家事や外出、周りとの付き合いなどに影響を感じる人は、40代に33・9%、50代で27・1%いた。  婦人科がんや更年期など女性に関わる健康課題は社会にも打撃が大きい。経済産業省は欠勤や仕事の効率低下などで年3兆4千億円の経済損失があると見積もる。うち約1兆9千億円を占めるのが更年期症状で、離職の場合の損失は約1兆円と試算。職場で支援する必要があるとしている。  ビバエルで医療面を担う高宮城直子医師も更年期障害で離職し、2年間仕事をできなかった経験があり、症状を自覚したら専門医の診察を受けるよう勧める。  「更年期に適切な治療を受けるかどうかは、60代以降の健康や生活の質に関わる。働き盛りの女性が元気に働き、自らの人生を生きることは社会にとっても意義がある。周囲の人は、つらさを理解して話を聞いてほしいし、職場も休みやすい環境づくりに取り組むことが欠かせない」と訴える。


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