道の駅や街路市で、「手作りの漬物」を購入したことがある方少なくないのではないでしょうか。この手作りの漬物、食品衛生法の改正で、姿を見る機会が減るかもしれません。法改正で、一体何がどう変わるのか。漬物作りを諦める人、続けていく人、それぞれの思いを取材しました。

高知の台所=高知市の日曜市です。毎週、地域の人だけでなく観光客でにぎわいを見せる、高知市を代表する観光スポット。ここで、旬の食材などと一緒に販売されているのが、手作りの漬物です。

大崎敦子(おおさき・あつこ)さんは両親の代から、60年以上に渡って日曜市で店を出していて、季節の野菜だけでなく自家製の梅漬けも並べています。

(大崎敦子さん)
「今まで親の代から(梅漬けを)ずっとやってきたけれど、手伝いに来ている人たちから(梅を)漬けてよと言われる。言う通りに(梅を)漬けても同じようにならない」

(大崎敦子さん)
「はいどうぞー」

(客)
「日本で一番うまい」

(大崎敦子さん)
「みんなにそう言うてもらえるもうちょっとで終わるで。ありがとうございます」

(客)
「全然違う。本当においしい。安いし、うまいし」

大崎さんの梅漬けはストックする人もいるほど。しかし6月から、日曜市に並ぶことはありません。その理由は、食品衛生法の改正です。2012年に北海道で起きた、浅漬けによる集団食中毒がきっかけで、6月から、漬物や水産製品などを作る際には保健所の「営業許可」が必要となります。

自宅の台所などで調理をすることはできなくなり、専用の調理スペースや手洗い場を設置するなど衛生面の基準も満たさなければなりません。

こうした中、大崎さんは…

(大崎敦子さん)
「漬ける場所を置く場所をきちっとせないけないので、70歳過ぎて80歳にもなるので、それをしてあと継ぐ人がおらん。それでもうしません」

作り手の高齢化や営業許可を得るための設備改修もあり、「もうやめる」という声も少なくないといいます。こうした中、県では、改修が必要な施設に対して最大100万円の補助制度を設けています。

(県地産外商・地商課 伊藤一絵 チーフ)
「高知のおいしい野菜を使った漬物を食文化として残していきたい、味を伝承していきたい。施設整備にお金がかかるという不安の声も聞いていて、その部分は市町村と協調して改修費用を補助する支援策を設けている」

越知町にある漬物専門店=越知物産は、補助制度を利用し、「漬物作りを続ける」選択をしました。キュウリやミョウガなどが入ったしば漬けや大根を使った古漬けが人気で季節に合わせておよそ40種類の漬物が並べられています。

3代目の井関曜(いせき・あきら)さん。井関さんは2023年の秋から半年ほどかけて加工場に様々な改修を施しました。

(越知物産 井関曜 代表)
「シャッターや壁を付けて鉄骨を組んで、室内という形に全部するようになりました。漬物に必要な通気性がこれでなくなったので、それによって商品がどう変わるのか、今年の商品のでき具合によってになる」

井関さんは母の信代(のぶよ)さんと作業員のたった3人で漬物を作っていて、工程のほとんどは手作業です。材料の野菜はトン単位で仕入れていて、食感を良くするために機械では難しい乱切りという切り方にしています。そのため野菜を切るだけで丸一日かかることも。

漬物作りに欠かせない塩漬けの行程では切った野菜に塩をふり手で何度も何度も混ぜていきます。

(越知物産 井関曜 代表)
「手洗いと洗い物をする流しを別々にしないといけないので、一つ流しを追加したのと、蛇口を付けて、あと手のひらで蛇口を開くとダメなので、ひじとか手首で開けられる蛇口に付け替えた。大きな作業工程での変化はないですけれど、窮屈になったとか場所を余分にスペースをとった部分では、予算も投じてなので、必要ななかった部分にお金がかかるっていうのはあります」

こうした改修にかかった費用はおよそ400万円。町や県から50万円の補助金が出ましたが小規模な事業者にとっては大きな出費です。

(越知物産 井関曜 代表)
「ルールとはいえ、100万200万という金額が大きく動くのは、死活問題になってくるので、設備にお金をかける分もあれば、当然、物価も上がってますんで、従業員の給料を上げたい部分もありますけれど、なかなかそこまで手が回らないっていうのが現状です」

法改正という流れの中で、大きな費用を負担することになった井関さんでしたが『受け継がれてきた漬物を残す』と心に決めています。それを楽しみにする人たちがいるからです。

(越知物産 井関曜 代表)
「また法律が変わってこうしなさいってことが出てくるかもしれませんけれど、現状は今の設備で続けていけるので、できる範囲で維持することに精一杯努めようかと思っています」

県によりますと新たな営業許可は、これまでにおよそ160件出ていますが、同じくらい、許可にいたっていないケースもあるといいます。それぞれに事情を抱えながら、この味をどうしていくのか、みなさんの模索は続きます。

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