6月に『食品衛生法』が改正されます。これにより、身近な食べ物にも影響が出るかもしれません。例えば明太子や干物、そして道の駅で見かける「地元で作られた漬物」の品数が減ってしまうかも…?

今年3月の取材内容から、法改正のポイントと食卓への影響を振り返ります。(初掲載:2024年4月10日)

人気の漬物が“生産終了”へ 「誰かが引き継いでもらえれば…」

熊本県菊池市、泗水町(しすいまち)で40年以上作られている『養生みそ』。

この味噌を使った漬物が、地元の農産物市場などで人気を集めています。

JA菊池 女性部泗水支部 自然食品加工グループ 村上みどりさん
「添加物が入っていないことが一番大きい。リピーターのお客さんが多いと思います」

しかし、漬物は5月末までに生産を終えることになりました。
※味噌は生産・販売を継続

理由は原材料費の高騰。そして、食品衛生法の改正です。

村上さん「誰かが引き継いでもらえれば良いが、うちではできないから。それが残念です」

食品衛生法の「規制強化」

なぜ法律が変わると生産が難しくなるのか、県の担当者に聞きました。

県衛生環境室 笹岡奈々 主幹「日本を取り巻く環境の変化や国際化に対応する形で食品の安全を確保するために法律が改正された」

今年6月からHACCP(ハサップ)という国際基準に合った衛生管理などを導入することが義務付けられます。

そのため漬物を作って売るには施設の改修などが必要になります。

50年の歴史を守るために

菊池市で父親の代を含めておよそ50年漬物を作っている中村(なかむら)さん夫婦は、作業中に水道の蛇口を手で触ることが新しい基準に引っ掛かっていたため、ひじで開け閉めできるレバー式の蛇口に変えました。

中村漬物 中村浩子さん「あちこち変えないといけないなら続けることは多分できなかったが、ここだけで済んだからできるかなと」

設備投資は、2万円ほどで済みました。

実は熊本県はこれまで独自の基準として
・自宅の台所で作らないこと
・外から虫が入らないようにすること
など厳しく衛生管理をしていたため、法律が改正されても設備投資が少なくてすむ事業所が比較的多いということです。

出品者が半減した道の駅

一方、お隣福岡は熊本以上に難しい状況にあります。
大牟田(おおむた)市の道の駅では…

道の駅おおむた 花ぷらす館 渡部みつる店長「確実に出荷数が減っています。法の基準に合った作業場を確保できないということですね」

およそ10の個人と業者が高菜や白菜の浅漬けなどの漬物を卸していましたが、この1年で5つほどの業者が辞めて、さらに5月末で廃業を検討する人もいるということです。

現状、福岡は県の規制が緩やかで施設の基準もないため法律の改正に合わせるには作業場の改修が必要なケースもあり、多くの費用が必要で対応できない人が増えそうだということです。

渡部店長「出荷の数が減るとうちにもダメージがあるし、出荷先の収入にも響くため寂しい」

改修におよそ2000万円、残る疑問「どういう目的なのか」

熊本県天草市牛深(うしぶか)はウルメサバなどで作る雑節(ざつぶし)の名産地です。

法律の改正で雑節を作るためには国の営業許可が必要となり、水産加工会社は対応に追われています。

西岡勝次商店 西岡勝太郎 社長「どうにか間に合うように工事しています」

西岡さんの会社では雑節の原料となる魚を干す場所に対策が必要でした。

西岡社長「干し場が泥(土の舗装)だったんです。魚を干すためには泥ではダメですよと県に言われて、舗装した」

その他にも海水の殺菌設備を導入するなど、およそ2000万円かけて対応します。

そもそも、法律の改正の大きな目的は製造する環境を国際基準にすること。会社の製品は海外に直接輸出する予定はないにも関わらず対応を迫られることに、西岡さんは疑問を感じています。

西岡社長「国がどういう目的で雑節などの業種を新たに『許可が必要』としたのか、あまり意図が我々に伝わっていない」

規制対象の食品は他にも

熊本県によりますと、過去に他県で漬物やだしパックによる食中毒があったため、国内で安全性を高めていくことが狙いだということです。

漬物や雑節以外にも、煮干し、しらす干し、塩辛、明太子なども6月から規制が厳しくなります。そのため今後、店頭から姿を消す商品が出る可能性があります。

地域の昔ながらの食文化は一度途絶えると戻らないので、その文化を残す取り組みも考えていきたいですね。

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