世界から平穏な日常を奪った新型コロナウイルス。おわらは2年連続の中止に追い込まれました。そして2022年、各町で様々なコロナ対策を講じ、規模を縮小して3年ぶりに風の盆の開催にこぎつけました。次の世代へ種をまく「小さなおわら」です。引退1年延長、26歳で迎えた卒業のおわら。踊りの思いは…

2022年9月1日。久しぶりにおわらの調べが坂の町を包みました。

雨の影響で客足はまばらですが、3年ぶりにお客さんを迎えての「おわら風の盆」が始まりました。

おわらを支える町のひとつ西町の踊り手、牧山葵さん、26歳(当時)です。

牧山さん:「まあ、雨すごいけど。できたから良かったです。お客さんとかカメラも見えました。初日にしては、頑張った」

新型コロナ対策として、西町では、踊り手たち念願の舞台を町内に設置。観光客を制限しながら、磨いた技を披露する場を確保しました。「小さなおわら」です。

新型コロナ感染拡大で「風の盆」も中止に

2020年。世界を取り巻く状況は新型コロナで一変。国内各地祭りがコロナの影響で中止になりました。「おわら」も中止せざるを得ませんでした。

おわら風の盆 行事運営委員会金厚会長:「八尾町の この中に人口は3千人いないんですよ。一晩に10万人も集まると密以外のなにものでもない。残念ですよ」

中止を受けて当時24歳の牧山さんはー

牧山さん:「いや~大変なことになりました。どうしましょうかね。マスクつけて踊るのも変ですけど、いやでも…このまま踊らずに終わるのか、もう一年延長していただけるのか」

おわら風の盆と“ならわし”

富山県の中央部に位置する八尾町。

小高い丘の上に残る古い町並み。坂の町八尾に響く“胡弓の音色”が秋の訪れを告げます。民謡「おわら」です。

9月1日から三日三晩、八尾の人々は歌い、踊りあかします。地方とよばれる唄・囃子・三味線・胡弓・太鼓が織りなす調べと、踊り手たちの優美な踊りは、ひとつの芸術とも評されます。

引退の”ならわし” 現実とのはざまで葛藤する踊り手たち 

おわらの踊り手は25歳を区切りに引退しなければいけないという暗黙のルールがあります。この“ならわし”は、かつて踊り手の数が多かった時代、浴衣を人数分用意できないことから生まれたものですが、子どもが少なく担い手不足の今、このしきたりは時代に合っていないとの意見もあります。

実際には人手不足から、年齢制限を引き上げている町もあり、「ならわし」と「現実」のはざまで揺れ動いているのがおわらの現状です。

コロナによる祭り中止で西町では、引退の年齢について話し合った結果、1年延ばし26歳にすることにしました。

しかし、その場合、年頃の女性にとっては頭の痛い問題も浮かびあがります。女性の踊り手は未婚であることが求められます。1年引退を引き上げると、結婚も1年延びることを意味しますが、人生に関わる大きな問題。意見は割れました。

記者「人生に多大な影響を与えている?」
牧山「そうですね。25歳までは、おわらを少しは考えつつ、って感じになるかな」

しか し、この翌年2021年も新型コロナの感染拡大で「おわら風の盆」は中止に追い込まれました。

「おわら」とともに歩んだ人生

牧山さんは、3人きょうだいの次女で幼い頃から、日常におわらがありました。

牧山さん:「これこれ、2歳。こんなときからおわら。姉弟三人で一緒に行って、上級生の子とか姉ちゃんの代とかの子たちと一緒に遊んだり、仲良くなりつつ、青年団になっても一緒にやっていく」

母「自分でやりたいと決めたらやっていた。憧れの先輩がいるんですね。先輩のようにおどりたい。真似というかね。それを引き継いでいきたい。後輩にも教えていきたいなという気持ちが強いんだと思います」

父「あお 踊られと。じじいの前で」

爺「うたわれよ~♪」

先輩や家族から受け継いだおわら。次は彼女がバトンを繋ぐ番です。

2022年のおわら引退を待って、10月に入籍する予定です。

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