沖縄県内41市町村の魅力を紹介する「わがまちLink41」。今回は浦添市にある美容室について。長年、地元の人に愛される店ですが、取材すると美容室からは想像がつかないもう1つの顔が見えてきました。


宮城恵介記者
「浦添市・城間にやってきました。米軍キャンプキンザー、そのそばにある国道58号の近くにちょっと変わった特徴の店があるということです」


浦添市城間にある美容室「Anny」。オーナーは平敷七海さん。美容師歴25年、10年前にAnnyをオープンしました。

平敷七海さんの同級生・新垣利枝さん
「長年通っていて私の髪質とかも知ってくれているので、安心して任せられます」

新垣さんが「Anny」に通う理由は、七海さんのカットの技術だけではないようです。


平敷七海さん
「みんな同級生来るから。来てたよ!って」

新垣利枝さん
「なんでも教えてくれます。楽しいですねみんな何してるのかなとか、全然わからないので」

新垣さんにとって髪を切る時間は同級生の近況を聞くことができるリラックスタイムです。

七海さんの明るい人柄で愛されている美容室ですが、実はもう1つの顔があります。


平敷七海さん
「こちらからですね。こちらがギャラリーとなります」

美容室のすぐ隣には写真を展示するギャラリーが。常設展示のほかに色々なコンセプトの展示会を開催しています。


平敷七海さん
「このスペースは平敷兼七のポートレートの写真を展示しています。私の父親ですね」


平敷七海さん
「これは『優しい女性』っていうタイトルですけど、この方も夜の女性なんですけど、お友達の子どもを抱っこしている姿ですけど、とても優しい女性だったと聞いていますね」


七海さんの父・平敷兼七さんは1948年生まれの写真家。夜の街で働く女性たちの写真を数多く撮影し、代表作「山羊の肺」は沖縄の若手写真家に大きな影響を与えました。


七海さんが父の兼七さんが残した写真を見せてくれました。

七海さんの祖父母は、現在ギャラリーがある場所で「平敷テント」を営み、個人向けのテントを販売していましたが、ある時、転機が訪れます。


平敷七海さん
「この中に防弾チョッキ入っているんじゃないですかね」

キャンプキンザーのすぐそばにあった平敷テント。1960年代、米軍から防弾チョッキなど大量の発注を受けて繁盛します。

しかし、若い頃から写真の魅力にのめり込んでいた父の兼七さんは、平敷テントをスタジオに改装し、生活は徐々に苦しくなっていきます。

平敷七海さん
「給食費も払えなかったんですよね。払えないのはどうしたかっていうと、学校に行って相談しにいく訳です。待っててくれと」


もともと寡黙だった兼七さんの性格に加えて、金銭的に苦しかった幼少期の生活。娘の七海さんは父にいいイメージは抱いていませんでした。

平敷七海さん
「写真で食べていくってほんとにわずかなので、両立するのも本人は仕事しながら作家というのは、できないことだと思いますね」

生活は苦しかった一方で、人の表情を温かく切り取る兼七さんの作風は、若手の写真家に大きな影響を与えていました。

沖縄市でフォトスタジオを運営する中川大祐さん。コザの町を背景にしたウェディングフォトなどを撮影しています。

中川さんも、兼七さんの写真に魅せられた1人です。


中川大祐さん
「なにかどこか誰かを意識していい写真を撮ろうっていう、そういう嘘を平敷さんはことごとく見抜いていくんですよ。饒舌な方ではないので平敷さん自体が。残された写真集を見ていくと、そういったメッセージが強く出ているんですね」

2009年、肺炎のため61歳の若さで亡くなった兼七さん。父の死後、七海さんはこのギャラリーをオープンすることにしました。

平敷七海さん
「亡くなって6年たったあとにギャラリーをオープンしたから、平敷兼七、忘れられていくなと思ったから、これやんなきゃいけないねっていうのが決めでしたね」


幼いころの父に、あまり良い印象を持っていなかった七海さんですが、ギャラリーのオープンをきっかけに、”これまでとは違う父の姿”が見えてきました。

平敷七海さん
「普通、人が亡くなったら、もういいやって訪ねてくる人いなくなるじゃないですか。写真を飾っているとそこに平敷さんにこういう風にやってもらったとか、思いをまだもっている方が訪ねてくるから、それを私に教えてくれたりするから、身近な人、大事にしていたんだなと思って」


父の作品を紹介するためにオープンしたギャラリーですが、地域の憩いの場としても成長しています。


写真家・永山直樹さん
「七海さんの人柄に惹かれて色んなアーティストがくるので、いろんなジャンルのアーティストの交流が行われて、良い意味でアートのるつぼな面がこの平敷兼七ギャラリーのいいところ」

画家・井上淳三さん
「居心地がいい。変なのばっか来る。変わった人ばっか来るからな嫌になってくる(お前もだよ、あんたも)」

人々が集う美容室と、亡き父の思い出が詰まったギャラリー。こんな場所にしていきたいと、七海さんは考えています。

平敷七海さん
「引きこもりできた学生がいたので去年。よくここに来て和が広がって画家になっちゃった子もいるので。そういう人たちがちょっとでもアートをきっかけ人とのコミュニケーションができる場になってほしいなと思いますね」

浦添市の美容室を訪ねてみると、亡き父が残した写真をきっかけに、地域の人々が集う、心地よい空間がありました。

<記者MEMO>
VTRの中でギャラリーに来たことがきっかけで画家になった学生の話がありましたが、現在高校2年生の仲里悠咲さんです。


それまで絵に興味はなかったんですが、平敷兼七ギャラリーを訪れたことがきっかけで画家の先輩たちと交流することが増え、自分でも絵を描くようになり、最近では絵画展を開くほどになりました。

展示されている写真も魅力的なものばかりなんですがギャラリーにあつまる人も個性的な人が多いので、みなさんもぜひ、足を運んでみてください。
(取材:宮城恵介)

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