阿炎(右)を押し出しで破り初優勝を決め、安堵(あんど)の表情を浮かべる大の里=両国国技館で2024年5月26日、幾島健太郎撮影

大相撲夏場所千秋楽(26日、東京・両国国技館)

○大の里(押し出し)阿炎●

 大一番に足がすくむことなどなく、栄光へと突き進んだ。自身初、それも幕内史上最速の優勝がかかる取組でも落ち着いて、攻めに徹した大の里には、もはや「ホープ」という言葉が似合わない。

 立ち合い、もろ手で突いてきた阿炎の腕を、鋭く踏み込みながらあてがう。さらに左からおっつけて相手を崩し、最後は自身の右ものぞかせ、素早い出足で押し出した。

2019年に日体大で学生横綱となり、笑顔を見せる当時の大の里=堺市大浜公園相撲場で猪飼健史撮影

 強豪・日体大で学生横綱、アマチュア横綱に輝いた大器は、自らの判断で若手時代に厳しい稽古(けいこ)で番付を上げた二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)のもとで鍛錬する道を選んだ。その弟子は周囲の期待通りに記録的な速さで番付を駆け上がるが、二所ノ関親方は「スピード昇進にこだわりはない。土台を作ることから始めている」と語っている。

 千秋楽の取組を前にしても、大の里は二所ノ関親方にこう声をかけられたという。「これ(初優勝)が(一番の)目標じゃない。優勝しても喜ぶな」。さらに先を見据えるよう諭した師匠の言葉に、大の里は「気持ちが楽になったし、集中できた」と感謝する。

 初めて賜杯を抱いた喜びに浸るのもつかの間、大の里には次なる挑戦が待っている。入門から1年で早くも「大関」の地位が見えてきたからだ。新三役の場所で、12勝。千秋楽の取組後、高田川審判部長(元関脇・安芸乃島)は今場所が大関取りの「足がかりになる」と明言した。

 当の本人の考えは、至ってシンプルだ。「親方の言うことを守って、上へ上へと頑張りたい」。不安定な上位陣をよそに、名古屋場所でも主役を張るのは間違いないだろう。【岩壁峻】

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