体操のNHK杯最終日(19日、群馬・高崎アリーナ)

 男子は20歳の岡慎之助(徳洲会)が初めて優勝し、初の五輪出場を決めた。2位の萱和磨(セントラルスポーツ)は2大会連続の代表入り。団体での高得点が期待できる選手を選ぶ残り2枠には、初出場となる杉野正尭(徳洲会)と、2度目の出場となる谷川航(セントラルスポーツ)が入った。

 タンと着地した。最終種目の鉄棒。杉野に万雷の拍手がふる。普段は良い演技後には「シャー」と大声を上げる。だが、何度も拳を握るだけで声は出ない。「3年間の思いをかみしめていた」

 3年前、東京五輪の代表選考会もこの高崎だった。代表入りには15・1点が欲しかった鉄棒で、難しい技に挑む一世一代の「ばくち」に出た。賭けには勝ったはずだった。だが、無情にも15・0点だった。

 大一番で力を出せるのが売りだった。だが、それからの2年間、世界選手権をかけた大会で失敗が続く。鹿屋体大時代から指導する村田憲亮(けんすけ)コーチは、「自分を信じ切れなくなっているように見えた」。

 転機は、昨年6月。これまでは一歩引いた立場から見ていた米田功監督が直接指導するようになったこと。「なんで?」「なんで?」。容赦なく突き詰められた。監督と意見が衝突することもあった。

 そうしているうちに、昨年までは数限りなくあった演技中の意識するポイントが集約されていった。たとえば鉄棒では意識する項目は二つだけだ。整理されて、安定感が増した。

 4月に始まった選考会のしょっぱな、得意のあん馬で落ちて窮地に立たされた。でも、「勢いがなくて落ちた感じだったから。思い切っていけば心配ない。落ちる方が珍しい」。残り3度のあん馬にはすべて成功。鉄棒、跳馬と代表入りのために欠かせないほかの得意種目でも高得点をそろえていった。

 この日は2種目めのあん馬を成功した時点で、代表入りは濃厚になっていた。3年前のようなばくちは必要なかった。それだけの実力をつけた。

 「絶対に泣かないと決めてたけど、泣いてしまった。そこだけはイメージ通りにはいかなかった」。高崎での借りを、高崎で返した。(内田快)

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