愛知県豊橋市の長坂尚登新市長が選挙戦の公約通り、市中心部の豊橋公園内に計画される多目的屋内施設(新アリーナ)建設の中止に向けた手続きを進める中、計画継続を求める団体や住民の動きが活発化している。計画の行方には、地元プロバスケットボールチームの新トップリーグ参入の可否も絡み、波紋は広がるばかりだ。【永海俊】
「市長として第一に始める取り組みは新アリーナ計画の中止であり、早期の契約解除に向け手続きを進める」。12月市議会が開会した2日、長坂氏は所信表明でそう述べた。
11月の就任からわずか4日後、事業者グループに契約解除の協議を申し入れた。契約金額は約230億円。事業者側から今後、損失補償を求められる可能性があるのが手続きを急ぐ理由だ。
これに反対する動きが次々と出ている。豊橋商工会議所は「地域経済の停滞を招くような判断は看過できない」との会頭コメントを発表。連合愛知豊橋地域協議会も、防災拠点などとしてのメリットを挙げ「事業継続は必要不可欠」とするメッセージを出した。
さらに、住民有志が3日、約13万4000筆の署名を添えて事業継続を求める請願書を市議会に提出した。これには、新アリーナを本拠地とする前提で2026年開幕の「Bプレミア」入りが決まっているプロバスケットボールBリーグ1部「三遠ネオフェニックス」が協力。試合会場の一角でも住民らが署名を募った。
市内だけでも6万筆近い署名を集めた「新アリーナを求める会」の川西裕康共同代表は「請願の(署名の)多さも考慮し、しっかり議論してほしい」と訴えた。
市長選で長坂氏は、計画を推進した浅井由崇前市長に約4400票差を付けて初当選した。だが、計画に賛成の立場だった前市議長と浅井氏の得票を合わせると長坂氏を上回る。計画の是非だけが選挙で問われたわけでもないため、市民に賛否のいずれが多いのかは分からないままだ。
過去に2度、交通環境の悪化などを理由に計画に反対するグループが賛否を問う住民投票条例の制定を求めた。しかし、浅井氏は「多数の賛同を得て事業を進めており、制定の意義は見いだしがたい」と意見を述べ、計画賛成の会派が多数を占める議会で条例案は否決された。
また、事業者側と契約が締結されたのは市長選が目前に迫った今年9月末だった。9月市議会に、市長選より前には契約を結ばないよう求める請願が出されたが、賛成少数で不採択となった。
結果的に「民意のありか」を丁寧に確かめないまま計画を急ぐ形になったことが、現在の混乱につながっていると言える。
4年前の市長選でも当時、計画の「ゼロベースでの再検討」を掲げた浅井氏が当選した。長坂氏は定例記者会見で計画継続を求める動きについて聞かれ、「2回連続で新アリーナを豊橋公園にはつくらないと主張した候補が当選した。(計画中止の)方針は変わらない」と強調した。
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