ブレイキン男子予選ラウンドで演技する大能寛飛選手=コンコルド広場で2024年8月10日、平川義之撮影

 パリ・オリンピックは10日、新競技のブレイキン男子がコンコルド広場で行われた。大能寛飛(おおのひろと)選手(19)=ダンサー名・HIRO10=は石川県出身。今年1月の能登半島地震では祖父母が被災し、避難所生活を余儀なくされた。地元の被災地を励まそうと臨んだ五輪は決勝には進めなかったが、全力の「パワームーブ」を披露した。

 大能選手は金沢市で育った。祖父母宅は能登半島の石川県穴水町にあり、地震でライフラインを断たれた祖父母は一時、避難所に身を寄せた。滞在中に祖父が新型コロナウイルスに感染するなど、厳しい生活を強いられた。

 地震が起きた時は、ダンスの練習で大阪にいたという大能選手。当初は祖父母ら被災者の状況と、自らのダンスを結びつけて考えていなかった。

 だが、小学生時代の担任教諭から連絡があった。世界大会で次々と好成績を残す姿を見ていたのだという。「寛飛のダンスのおかげで元気をもらった。みんなで頑張る」。そう言われ、はっと気づいた。「おれのダンスで元気が与えられるんだ。だったら頑張ろう」

 11日は予選3試合全てに敗れたものの、逆立ちのような状態で何度も足と体を回転させる迫力の「パワームーブ」で誰よりも会場を沸かせた。最後の試合で、世界選手権を2度制覇した米国の強豪選手に敗れると、判定に不服な観客からブーイングがわいた。

 試合結果に大能選手はステージ上でうつむいて泣いた。感謝の涙だった。「悲しい気持ちもあったけど、応援してくれた皆を思い涙が出てきた」。会場のあちこちから「ヒロ!」と励ます声が飛んだ。

地元の人たちから贈られた旗を掲げて応援した、大能寛飛選手の父善行さん(右)と妹の瑛さん=パリで2024年8月10日午後6時45分、黒川晋史撮影

 この日、祖父母は新調したテレビを用意し、自宅から声援を送ったという。父善行さん(45)や妹瑛(あきら)さん(17)はパリへ応援に駆けつけ、大能選手の出身中学の生徒が作った「石川に夢と希望を!」と書かれた日の丸の旗を掲げた。

 地元住民たちも県内のパブリックビューイング会場などから応援。善行さんのスマートフォンには試合直後から「感動をありがとう」などのメッセージが次々と届いた。善行さんは「明るい話題を届けられた」と話し、息子をねぎらった。【黒川晋史】

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