パリ五輪 陸上男子マラソン
高低差が大きく五輪史上最難関と呼ばれるコースで、折り返しを過ぎてからトップに立ったのは、1年前まで日本国内でも知名度が低かったランナーだ。
赤崎暁(あきら)、26歳。出場選手の中では明らかに劣る2時間9分台の自己記録ながら、涼しい顔で並み居るランナーと渡り合った。
高低差が最大156メートル。加えて、伝統的な町並みは石畳で足を取られやすい。ルーブル美術館、エッフェル塔など市街地の名所を巡りながらセーヌ川沿いを走る道のりは美しくも、激しい起伏で有力ランナーに牙をむく。3連覇を狙ったエリウド・キプチョゲも、折り返す前にトップ戦線から離れた。
赤崎ら日本勢は上位集団に食らいつく。上り基調になった15キロ以降、さらにもう一段階駆け上がる20キロ付近でも粘りを見せ、4位集団をキープした。下りになってペースが上がると、25キロ過ぎて一気にトップに立った。
熊本出身の五輪マラソン代表は、1924年パリ五輪の金栗(かなくり)四三(しそう)以来100年ぶり。金栗はNHK大河ドラマ「いだてん」の主人公の一人として取り上げられたランナーだ。郷里の歴史に再び脚光を当てた赤崎は、2023年10月の五輪代表選考会、マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)で、雨中の悪コンディションで粘りの走りを見せて、パリ行きを一発で決めた。
熊本・大津中学時代はバレー部で、1年先輩にはパリ五輪女子代表の古賀紗理那がいたという。「本業」ではないのに、県中学駅伝に選手として駆り出されて才能を注目され、地元の開新高で本格的に陸上を始めた。
長距離界の名将・岡田正裕さんから拓殖大時代に薫陶を受け、実業団の九電工に進んだのも「マラソンもやれる選手だから」という岡田さんからの推薦もあった。九電工の綾部健二総監督は「自分が決めたことは貫くが、頑固で困るというようなことはない」と評す。パリ五輪まではトラックレースもこなし、スピードを養ってきた。
伸びしろ十分で乗り込んだパリ五輪。「人生すべてかけて臨みたい。『マラソンの赤崎』と言ってもらえる存在になれれば」。宣言通りの走りを見せた。【パリ岩壁峻】
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