陸上 男子400メートルリレー決勝(9日・フランス競技場)
自国開催の東京五輪でのバトンミスから、3年。ほとんどのメンバーがリレーでは初めての五輪に臨んだ「新生・侍」が次なる一歩を踏み出した。
男子100メートルで世界選手権2大会連続決勝進出中のサニブラウン・ハキーム(東レ)がチームの核だが、主軸で五輪のリレー出場経験があるのは2016年リオデジャネイロ五輪銀メダルメンバーの桐生祥秀(日本生命)だけ。それでも、日本は巧みなバトンワークを継承し、洗練させることで陣容が変わっても「個」に勝る海外勢と渡り合ってきた。
走る姿勢に近い形でバトンを受けられスピードに乗りやすい利点に注目し、日本は渡す側が下から上にバトンを入れるアンダーハンドパスを25年近く採用している。多くの国は走者間の距離を稼ぐことを優先してオーバーハンドパスでつないでおり、関係者によると主要国では日本とフランスしか使っていない。
アンダーハンドパスは受け渡しで走者同士が近づくため距離が稼げない短所があるが、日本陸連は「(距離を稼ごうとして)間延びするより、詰まった方がまだ加速は続いている」と15年ほど前から研究で結論づけている。
さらにバトンの受け渡し区間のテークオーバーゾーン(30メートル)からその後の10メートルまでの通過タイムを設定することで、バトンを渡す速さの指標としてきた。
現在の理想通過タイムは3秒70~75秒。自身も04年アテネ五輪のリレーメンバーで、メダルを獲得した08年北京五輪から指導に加わっている日本陸連の土江寛裕・短距離ディレクターは狙いをこう語る。
「陸上選手は数値に慣れているし、敏感。(うまくいかなくても)『もっと加速してからバトンをもらわないといけない』などの要因を求めやすくなるんです」
しかし、精緻なバトンワークに自信を持って臨んだ東京五輪決勝では第1走者の視界に隣のイタリア選手が入って減速したことでテークオーバーゾーン内で第2走者につなぐことができなかった。
悪夢を「再現」し練習
現在のメンバーは、失敗からも学んでいる。
今回初出場の21歳、柳田大輝(東洋大)は東京五輪の補欠として国立競技場で失意の場面を目の当たりにしている。パリ五輪の予選を控えた4月の公開練習。柳田らは内側のレーンに別の選手を置き、その選手の体が視界に入った場合を想定して走った。東京五輪の悪夢の「再現」だ。
「僕からは何も(指示は)出さず、選手から『やりましょう』と言ってきた。一方通行ではなく、いい傾向だなと」。土江氏はチームに徐々に手応えを感じてきた。
かつての主力選手の故障や不振で、国内短距離界のトップ選手の顔ぶれは変わりつつある。過去に日本陸連で強化に関わった関係者は「東京五輪で結果を残せなかったことで、リレーは新たな布陣に挑戦できるようになった。東京五輪で棄権したという事実が好作用をもたらすこともあるのではないか」とみる。
苦い記憶を糧にすることで、リレー界はまた前を向けるようになった。【パリ岩壁峻】
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