(9日、第106回全国高校野球選手権大会1回戦 西日本短大付6―4金足農)

 西日本短大付(福岡)は打線が10安打6得点とつながり、打ち勝った。

 ただ、6点リードで迎えた九回の守り。金足農(秋田)の先頭打者が安打で出塁すると、甲子園球場の様子が次第に変わっていった。

 2018年の第100回大会で金足農が準優勝した。県立校が強豪私立を相手に、次々と劇的な勝利で決勝まで進んだ快進撃は「カナノウ旋風」と呼ばれた。

 この日、九回に金足農の2番・近藤暖都、3番・薮田龍人が連打すると、球場の一塁側アルプスを紫色のチームカラーで埋めた金足農の応援団が大盛り上がりとなった。さらに、内野席も一塁側だけでなく、バックネットから三塁側までが金足農の応援に合わせて大きな手拍子を送り始めた。

 西日本短大付の三塁を守っていた主将の高峰駿輝(としき)は「全員が金足農の応援にまわっていたのでびっくりした」。

 1点、2点……と金足農が得点するたびに、球場のボルテージはどんどん上がっていった。

 高峰は、一回からマウンドを守っていたエース村上太一に向かって、「大丈夫!」「楽しもう!」と声をからした。

 「ピッチャーを1人にしたら負けだと思った。内野全員にも、主将として声かけは続けていた」

 金足農の応援席に近い右翼手の斉藤大将(だいすけ)は試合後、まだ緊張した様子で振り返った。「拍手がめちゃくちゃはっきり聞こえた。ハラハラというか……心臓がバクバクしていた」

 ふと後ろを振り返ると、外野席の観客までが金足農の応援をしていたという。「後ろで観客が拍手をしていて、声援がこっちまで聞こえた。点差があったので、とにかく1個ずつアウトを取ろうと思っていたけど、とにかくドキドキしていた」

 守りのミスもあって4点を返されたが、最後はなんとか逃げ切った。

 本塁前に整列した西日本短大付の選手たちは、ほっとした表情を見せた。球場からは健闘した両チームに大きな拍手が送られた。

 「しんどかったです、しんどかった」と高峰は吐露。「正直、危ないと思った」。試合後の取材で、笑顔になることはなかった。

 「甲子園の独特の雰囲気にのまれてしまった。だけど、これ以上に怖いものはない。次に生かせると思う」

 1992年以来となる2度目の優勝に向かって、初戦で大きな経験を得た。(室田賢)

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