南北海道大会準決勝で力投する札幌日大の小熊梓龍=北広島市のエスコンフィールド北海道で2024年7月20日午後1時52分、後藤佳怜撮影
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 点差を詰められ、塁には走者がたまり、相手チームの応援と自分の鼓動がうるさく頭に響く――。そんな最悪の場面を、毎日目を閉じて思い浮かべる。弱点と向き合った地道な日々が、夏の南北海道大会決勝で過去3回敗退していた札幌日大に「4度目の正直」をもたらした。

 札幌日大のエース・小熊梓龍(しりゅう)(3年)には忘れられない一戦がある。昨秋の札幌地区大会2回戦。先発した小熊は強豪・北海を相手に快投を続けていた。

 六回終了時点で5―0。援護を受け、それまで被安打1とほぼ完璧に相手打線を抑えていただけに勝利は確実かと思われたが、七回の先頭打者に安打を打たれると集中が途切れた。

 「まずい」と焦るほど、腕に力が入り制球が乱れる。2四球に暴投も重なり、一挙4失点。この回限りで無念の降板となり、チームも逆転負けした。北海はその年の道大会を制し、翌春のセンバツに出場しただけに、「今までで一番、悔しい負け」だった。

南北海道大会準決勝で力投する札幌日大の小熊梓龍=北広島市のエスコンフィールド北海道で2024年7月20日午後2時5分、後藤佳怜撮影
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 この敗戦が小熊の転機になった。「ピンチで焦ってしまい、本来の投球ができない」という課題に向き合うため、メンタルトレーニングコーチの資格を持つ森本琢朗監督(43)の指導の下で「イメージトレーニング」を強化。練習前と就寝前に数分間、「終盤で逆転負けの危機の中、マウンドに立つ自分」を想像し続けた。

 冬季は投げ込み量も増やし、連戦でも完投できるスタミナを向上させた。週500球を目標とし、1日で200球近く投げる日もあった。腕に力が入りすぎて上半身がぶれないよう、下半身を鍛え、4月までの約半年で体重を12キロ増やした。

 成果は大事な場面で表れた。今夏の南北海道大会決勝、立命館慶祥戦。6―0で迎えた七回に集中打を浴び、4点を返された。昨秋の北海戦と同じ「七回の4失点」に悪夢がよぎる。

 だが、小熊は「毎日想像したシチュエーション。想定内だ」と深呼吸。硬くなった頰を両手でほぐしてマウンドに戻ると、八、九回は無安打に抑えた。ピンチにも動じない「不動心」に、手応えを感じた瞬間だった。

南北海道大会を制し、喜ぶ札幌日大の選手ら=北広島市のエスコンフィールド北海道で2024年7月21日午後0時16分、後藤佳怜撮影
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 小熊は今夏、地区大会からの7試合中5試合で完投。安定感に磨きがかかり、守備からロースコアで勝機を見いだす札幌日大になくてはならない大黒柱へと成長した。

 「1年の頃はすぐ感情的になった小熊が、今やチームで一番大人びた選手に成長した。だから、決勝の七回も交代させる考えはなかった」と森本監督。2年春からバッテリーを組んで支え合ってきた捕手の高橋諒太(同)も「どれだけ打たれても、内角のストライク先行で投げられるようになった。味方のエラーもカバーしてくれる」と信頼を置く。

 過去3度、先輩たちがはね返されてきた決勝の壁を乗り越え、初めて乗り込む夏の甲子園。心と体が一回りも二回りも大きくなったエースが目指すのは頂点だ。「自分が甲子園で投げられるのは周囲のおかげ。3年間の集大成を、日本一という結果で示したい」【後藤佳怜】

ベンチ入りメンバー

1投 小熊 梓龍③

2捕 高橋 諒太③

3一◎菊地飛亜多③

4二 森岡 颯太③

5三 中尾  颯③

6遊 帯川 拳誓②

7左 田中 涼介③

8中 窪田 洋祐②

9右 林  佑樹③

10補 高坂 大輔②

11〃 島田 柊聖②

12〃 増田  喬③

13〃 増田 圭吾③

14〃 中村 遥斗③

15〃 土田 大海②

16〃 中塚 響大①

17〃 高田龍之介③

18〃 中野 瑛基③

19〃 川合  黎①

20〃 工藤 陽都③

監督 森本 琢朗

部長 折霜 忠紀

※数字は背番号、丸数字は学年、◎は主将

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