体操男子個人総合決勝、岡慎之助をトップに押し上げた平行棒の演技=ベルシー・アリーナで2024年7月31日、玉城達郎撮影

パリ・オリンピック 体操男子個人総合決勝(31日、ベルシー・アリーナ)

岡慎之助選手(20)=徳洲会 金メダル

 「ビビらず、大きく」。最終種目の鉄棒、6人中5人目に演技した岡慎之助は、派手な離れ技こそないものの、足の先まで細かい部分にこだわった。誰が見ても一目瞭然の、きれいな姿勢。勝負の着地、小さく一歩動いたが、ほぼ完璧な演技だ。暫定首位で最後の選手の結果を待った。

 美しさの原点は地元の「おかやまジュニア体操スクール」時代にある。徹底して基礎を学び、毎日30分以上、倒立姿勢を続ける練習をこなした。「一生倒立をやっている感じだった」という岡は「倒立は休憩」という境地に達したと笑う。

 高校1年春に古里を離れ、社会人の強豪、徳洲会に入った。けがに悩まされたが、地道に練習と向き合った。2022年に右膝前十字靱帯(じんたい)断裂の重傷を負ったが、体育館の片隅で膝に負担を掛けないよう横になるなどして下半身を鍛えた。気の遠くなるほど地味な日々だが「ひたすら何かやるみたいな練習、意外と苦にならないんです」。着地に安定感や粘りが生まれ、倒立姿勢と合わせて美しさの土台が築かれた。

 積み上げたものは大舞台で花開く。5種目めの平行棒。高難度の倒立技を足先までピンと伸ばして決めた。158センチの小柄な体が、ひときわ大きく映った。その演技には他国のライバル、関係者も感嘆の声をあげた。15点台の高得点をマークし、世界の頂点に一気に近付いた。

 そして迎えた最後の張博恒(中国)の鉄棒。着地こそピタリと止めたが、途中の倒立姿勢などがややばらついた。わずか0・233点差で、岡が張を上回った。「やっと勝てた」。少しはにかんだような、いつもの岡の笑顔があふれた。

 2人の鉄棒の得点。岡は技の難度を示すDスコアは張より低かったが、出来栄えを表すEスコアで上回った。その差はメダルの色に直結。体操ニッポン伝統の、そしてけがを乗り越えて磨いた「美しさ」で、岡が競り勝った。【パリ角田直哉】

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