埼玉大会は、花咲徳栄の5年ぶり8回目の優勝で幕を閉じた。157校142チームが繰り広げた12日間の熱戦を振り返る。

 花咲徳栄は昨秋、今春と県内の公式戦無敗のまま埼玉大会に臨み、1991年の春日部共栄以来33年ぶりの「グランドスラム」を達成した。「試合前のじゃんけんに勝てば必ず先攻をとってプレッシャーをかける」とのチームの方針通り、6試合を先攻で戦って全試合で先制し、一度もリードを許さなかった。

 生田目、石塚の中軸を中心に7試合で4本塁打を含む21本の長打を放った強力打線は、11犠打26盗塁の小技も絡めた得点力で圧倒した。だが、決して楽な戦いではなかった。

 特に苦しんだのは、準々決勝の西武台戦。8点差をつけ迎えた七回裏、一気に7点を返された。九回裏に同点とされ、さらに無死満塁のサヨナラ負けのピンチに。ここから右腕岡山が粘投し、一塁手横山の好捕もあって追加点を許さず、延長タイブレークで競り勝った。

 準優勝した昌平も高い総合力を見せつけた。変化球にキレがある左腕古賀や最速146キロ右腕の鈴木ら7人の継投で準決勝まで3失点。決勝では大槻、山根の2人が3点本塁打を放ち、4点差を追いついての延長タイブレークに持ち込んだ。最後は守備の乱れが出たが、花咲徳栄を最後まで追い詰めた。

 春夏通算8度の甲子園を経験する本多利治監督が今年度限りでの退任を表明している春日部共栄は、準々決勝で昨夏王者の浦和学院に打ち勝った。準決勝で敗れたが、「泣くな!」という本多監督の言葉に鼓舞されて最後まで笑顔をつらぬいた。山村学園は、準決勝でエース西川が完投し、花咲徳栄打線を3点に抑えた。

 ノーシード勢の活躍も大会を盛り上げた。正智深谷は初戦で浦和学院を八回まで無失点に抑えるなど苦しめた。不動岡は3回戦、佐藤が二塁打3本を含む5安打と活躍してDシードの西武文理を破り、5回戦進出の原動力になった。浦和麗明はDシード川越工にサヨナラ勝ちし、同校初の8強に入った。開智未来が2017年の創部以来初勝利したほか、上尾橘・小川・桶川西の連合チームも初戦突破した。

 新基準バットの導入で戦い方も変わった。慶応志木は一部の選手が短い木製バットを使った。「軽くて扱いやすい」といい、犠打で着実に得点した。花咲徳栄も岩井隆監督が「野球が変わる。コンマ数秒の速さにこだわれ」と言い続け、守備の強化に力を入れていた。

 朝練を廃止した学校が増えていることも印象的だった。朝日新聞のアンケートなどによると、この5年間で浦和学院や東農大三、川越東などの強豪校を含めた少なくとも6校が廃止していた。睡眠時間の確保が主な目的だ。指導者たちは「体格が良くなり、精神面での余裕もできた」と手応えを語る。今後もこの動きは広まるのではないかと感じた。(山田みう)

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