日本の馬術界にとって五輪のメダルは歴史のかなたに輝く栄光だった。苦戦が続けば続くほど、1932年ロサンゼルス五輪で西竹一が獲得した金メダルは威光を増した。重い扉をこじ開け、総合馬術団体の大岩義明、戸本一真、北島隆三、田中利幸が実に92年ぶりのメダルを手に入れた。
「バロン(男爵)ニシ」の伝説は数知れない。陸軍騎兵中尉だった西は馬体の大きなウラヌスを愛馬とした。イタリア人騎兵でも乗りこなせなかった暴れ馬を、五輪の約2年前に購入して根気強く調教し、巧みな手綱さばきで操った。本大会で華麗な飛越で頂点に立ち、10万人とも言われる観衆から大喝采を浴びた。
派手な私生活も注目された。外相も務めた父の爵位と莫大な遺産を継ぎ、高級外車を駆ってハリウッド俳優との交友関係も。社交界でも知られる異色の存在だったが、太平洋戦争の開戦で時代の波にのみ込まれていく。かつて自身の名声を得た国と激しく戦火を交え、45年に硫黄島で戦死。42歳の最期までウラヌスのたてがみを肌身離さなかったと伝えられる。(共同)
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