マウンドに集まる長野主将(右から2人目)ら

 円陣でひときわ大きな声を出し、バットを握る。確かめるようにゆっくりと深呼吸。打席に入ると、また一つ、深く息を吐いた。  5点を追う八回、先頭打者として何としても塁に出たかった。初球から思い切って打ちにいった。当たり損ね、投手前に転がる。「頼む!」。祈りながら頭から滑り込んだ。セーフ。立ち上がると、胸までついた土を払うことなく顔を上げた。  昨夏は3回戦で、自身の送球エラーが原因でサヨナラ負け。仲間たちの夏を終わらせてしまった。この1年は、何度もあの悪夢のような場面を思い出した。「今年は自分がチームを勝たせる。そのためには強い気持ちが大事」。冬前に主将になってからは、仲間と積極的に対話を重ねた。  最後の夏は調子は上がらなかった。5回戦まで、守備固めでしか出場機会はなかった。でも「チームのためにできることはある」と伝令役を買って出て、ベンチでは誰よりも身を乗り出して声を振り絞った。準々決勝で先発出場のチャンスをつかんでからも、大きな声でチームを引っ張った。  九回。ベンチから必死に声を出した。「奇跡を起こすぞ」。あと一歩及ばなかった。頭が真っ白になり、スタンドに礼をしてベンチに戻ると涙があふれた。「強い気持ちで挑んだからこそ、悔しい」。真っ赤な目で神宮を後にした。


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