(27日、第106回全国高校野球選手権島根大会決勝 大社3―2石見智翠館)

 1点リード、九回表2死走者なし。あと1人打ち取れば32年ぶりの優勝。大社のマウンドに駆け寄った石原勇翔捕手(3年)は、エース馬庭優太投手(同)に声をかけた。「ここが目標じゃないぞ」

 走者を1人出せば、この日、2本塁打の1番打者に回る。石原捕手の言葉は、「甲子園でベスト8」の目標を緊張や気負いで見失うな、という意味だった。

 「やっぱり、わかってるな」。馬庭投手は平常心を胸に、気迫で腕を振った。最後の打者を三振に仕留めた瞬間、全身の力が抜け、マウンドにひざから崩れ落ちた。

 3年前の島根大会決勝。大社はこの日と同じ相手の石見智翠館に、無安打無得点で敗れた。姉が大社のマネジャーだった馬庭投手は、その一戦をスタンドで見ていた。翌年、「大社で甲子園」と誓って入学した。

 しかし、昨夏の島根大会は先発した準決勝で涙をのみ、昨秋の県大会も「大本命」と言われながら3位。今春の県大会は優勝した益田東に3回戦で1点差で敗れていた。

 「自分の気分で野球をやって、打たれて態度に出し、それで負けていた。(今大会は)みんなに助けられた」と仲間に感謝した。

 石原捕手は「(準決勝から)中1日で(体が)きつかったと思う」と馬庭投手を気遣い、「エースとして最後まで腕を振ってくれてよかった」。スクイズを決めて決勝点を挙げたのは石原捕手だった。

 互いに「チームの柱」「頭に描いたとおりの配球を出す鉄壁の捕手」という2人が、甲子園で仲間と「目標」をめざす。(中川史)

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