パリ五輪のメイン会場となるフランス競技場=2024年7月25日、長澤凜太郎撮影

 TGVの路線が何カ所か破壊されたらしい――「広く開かれた大会」をうたい、夏季オリンピックでは例がない、競技場外での開会式が予定された一日は、欧州を代表する高速鉄道網が寸断されるという、耳を疑うニュースから始まった。

 「開会式は行われるのか」。事件の記事を東京に送稿し、負傷者などがいないことを確認して、午後、開会式が行われるセーヌ川に地下鉄で向かった。

 開会式が始まる4時間前だった。厳重な本人確認と荷物検査を受けた後に指定された取材エリアに入った。6キロにわたる水上パレード航路のゴール地点寄り、アレクサンドル3世橋の上でエッフェル塔を目の前にしながらの取材が許された。

 にわか雨をしのぎながら、午後7時半を迎えた。河岸部分などで歌やダンスが始まり、各国の選手を乗せた船が続々と川を下った。会場に設置された大型スクリーンを見ながら選手たちの到着を待った。

 雨脚が強まり傘を差す観客でスタンドが埋まり始めた午後8時ごろ、アレクサンドル3世橋付近の観客の眼前に先頭のギリシャ選手団が現れると、一帯は大きな拍手と歓声に包まれた。

 93番目に登場した日本選手団は、日の丸を手に河岸の観客に手を振り笑顔を見せていた。川沿いのアパートのバルコニーの手すりには、さまざまな国の旗がかかり、セレモニーを楽しむ市民の姿が多く見られた。祭典の景色だった。

 すっかり日が暮れた午後11時22分、ルーブル美術館に近いチュイルリー公園に設置された気球形の聖火台に火がともった。歌手のセリーヌ・ディオンさんの歌声「愛の讃歌」とともに聖火が気球で空に運ばれると、この日一番の歓声が上がった。

 鉄路が破壊された複数の現場はパリ中心部からかなり離れている。開会式会場の一帯はテロを防ぐため、広範囲に金属製のバリケードが張り巡らされ、銃を手にした警察官らが警備に当たってきた。

 開会式前夜。そのパリ中心部の広場では五輪に反対する人々の大規模な抗議集会があった。誰が、何の目的で、パリにつながる鉄路を壊したのか。五輪とは何か、17日間を通じて考えたい。【パリ木原真希】

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