26日から後半戦が始まったプロ野球は、パ・リーグをソフトバンクが首位を独走している。その投手陣を束ねるのが今季、チームに復帰した倉野信次投手コーチ(49)だ。前半戦終了時点でチーム防御率でもトップに立つ投手陣を立て直しつつある敏腕コーチの指導スタイルとは――。
「魔改造はなぜ成功するのか」(KADOKAWA)
2021年に倉野コーチが出した著書の名前だ。その中で投手指導のポイントを「試合で打ちのめされたタイミングを逃さない」と記している。理由については「こちらの理解してもらうべきことを伝えるチャンスと考えている」とも。指導するにしても、その「タイミング」を常に重視している。
倉野コーチは三重・宇治山田高から青学大を経て、1997年にドラフト4位でダイエー(当時)へ入団した。主に中継ぎで活躍したが、2004年には先発で7勝し、プレーオフ第2ステージ(当時)の西武戦では先発で白星を挙げた。プロ通算は登板164試合19勝9敗1セーブ2ホールドで07年に引退。09年からはソフトバンクの2軍投手コーチ補佐に就任し、11年には3軍投手コーチとなり、育成選手で入団の千賀滉大投手(米大リーグ、メッツ)らを育て、ファンから「魔改造」と呼ばれた。
米コーチ留学をへて今季復帰
21年まで在籍した後、22年からは志願して米大リーグ・レンジャーズにコーチ留学した。米国でマイナーチームを担当しながら自らの指導法を再構築し、今季からソフトバンクへ戻り、投手コーチのチーフとして投手全体を統括する。
倉野コーチ流の「タイミングを逃さない」を体現したシーンが、6月12日の交流戦・ヤクルト戦だった。今季から先発に転向した2年目の大津亮介投手が、5回7失点で負け投手となった。中でも同点で迎えた四回2死満塁のピンチで、新人でプロ初出場だった鈴木叶(きょう)選手に、変化球主体で「逃げ」とも捉えられかねない投球を見せた末、勝ち越しの適時打を浴びた。
大津はこの試合まで今季4勝を挙げてローテーションも守ってきた。それだけに期待の若手の投球を、倉野コーチは試合後「技術のある投手なので、それで抑えられるだろうとしてしまった」と指弾し、「開幕から順調にきていたから起きたこと。彼の意識のどこかに隙(すき)があったと感じた」と語った。
一方、既に倉野コーチは大津投手との「反省会」を終えていた。「課題が分からないまま家に帰さない」が指導スタイルでもある。そこで指摘したのは打たれたことよりも「マウンド上でのエネルギーが見られず、戦う姿勢が感じられなかった」点だ。ともに「このままの内容ではマウンドには上がれない」などと伝えたという。
2年目の大津の「変貌」のワケ
次回登板の同22日のロッテ戦、普段はポーカーフェースの大津投手は自ら「闘争心をむき出しにした」。マウンド上で雄たけびをあげるなど、気迫を前面に出した投球で8回1失点で勝ち投手に。最終八回は3者連続三振と圧巻の投球だった。
倉野コーチはロッテ戦後、大津投手の「心技体」の中でも「心」の成長に触れた。「私も現役時代に感じたが、相手との勝負の中で『気持ち』が占める部分は大きい。技術のある投手だからその部分を感じてもらいたかった」と、その「技」だけに頼らなかった姿勢に目を細めた。
チームは2位ロッテに10ゲーム差をつけている。倉野コーチは「私はそんなに仕事をしていなくて、勝っているのは他のコーチのおかげ。明日からは全部負けてしまうのではないかという不安とも常に闘っています」と控えめだ。ただ、先発と中継ぎの苦労も知っている右腕。対話とそのタイミングを重視しながら、4年ぶりのリーグ制覇に向けてひた走る。【林大樹】
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