パリ五輪柔道女子48キロ級代表の角田(つのだ)夏実=SBC湘南美容クリニック=は華麗だ。対戦相手から「来ると分かっても防げない」と評される、ともえ投げで一本を取る。外してもあっという間に寝技や関節技で相手を沈める。ファンを魅了する柔道で昨年までの世界選手権を3連覇。誰もが金メダルを期待する。そんな角田は「諦めずに挑戦した。それが一番良かった」と柔道人生を振り返る。27日、日本柔道女子史上最年長の31歳で初の五輪を迎える。(渡辺陽太郎)

ジャカルタ・アジア大会女子52キロ級決勝で韓国選手(左)を破り優勝した角田夏実=2018年8月

◆「非エリート」の道 自分のスタイルを貫いた大学時代

 華麗とは程遠い、苦難の道を歩んできた。千葉県出身。小学生で柔道を始めた。高校の最高成績は52キロ級で全国3位。同級の阿部詩(パーク24)のように早くから全国に名をとどろかせる選手ではなかった。大学も強豪とは言えない東京学芸大学に進学した。  国内では投げて勝つことが美徳とされがちだ。同大は寝技や関節技で攻める角田の柔道を尊重した。角田は学内外で柔術やロシア発祥の格闘技「サンボ」も学び柔道の幅を広げ、3年時には同大初の学生日本一に輝いた。角田は「自分の柔道をつくることができた」と大学時代を懐かしむ。

◆同階級は強豪ぞろい 五輪に行くため減量決意

 ともえ投げは社会人から本格的に取り組んだ。自分の身を投げ出す大技で、相手に反撃機会を与えかねない。だが、角田は柔術経験を生かした素早い動きで反撃を許さない。だから大技を惜しみなく使える。2017年世界選手権では準優勝に輝き、世界トップクラスになっていた。国内の同じ階級には阿部をはじめ強豪がひしめき、最高峰の舞台と憧れる五輪への壁となっていた。  阿部には通算3勝1敗と勝ち越している。それでも国際大会の実績から東京五輪の代表は阿部が確実視された。代表発表を数カ月後に控えた19年秋、角田は27歳で48キロ級への階級変更を決断した。「柔道が好きなので、できるだけ長くやると考えたとき、上に行く必要がある」と思いを語った。「上」とは五輪に他ならなかった。  身長161センチは、48キロ級で五輪5大会連続出場のレジェンド谷亮子さんより15センチ、成人女性の平均より約3センチ高い。「何で、こんなに苦しいことをしているんだろう」と思うほどの減量が待っていた。角田は耐えた。21年から世界選手権3連覇と強さも保ち昨年6月、パリ切符をつかんだ。「諦めないってすごく実になる。しっかり準備して金メダルを取りたい」と喜んだ。

◆ネガティブな心の声は、否定せず受け止める

記者会見する48キロ級・角田夏実=2022年9月、東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンターで

 パリ五輪開幕を1カ月後に控えた6月下旬、角田からは「本当に大事なところで負けてしまうのが自分」「五輪ってすごい。そんな中で戦えるのかな」と後ろ向きな言葉が多く飛び出した。しかし、すぐに「ネガティブ(な考え)をどう減らしていくか。そうすることが細心の準備、隙のない柔道につながる」と続けた。試合が近づいても、自分のマイナス思考を否定せずに受け止め、試合に向け解決していく。それが角田だ。五輪でも普段と変わらない。畳に上がる準備はできている。  今大会では日本勢の金メダル第1号に、夏季五輪での日本勢通算500個目のメダル、48キロ級で04年アテネ五輪の谷さん以来の金メダル。角田にはこれだけの重圧がのしかかる。無名から世界トップになった。階級変更による減量苦にも耐えた。逆境でこそ強さを見せてきた角田にはそんな重圧も好材料かもしれない。「諦めずに戦って良かった。パリで結果を出して言葉にしたい」。遅咲きの31歳には、苦難の道の先に輝く金メダルが見えている。 

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