(23日、第106回全国高校野球選手権東東京大会準々決勝 日大豊山5―6東京=延長十一回タイブレーク)

 1点を追う延長十一回裏。内野ゴロに打ち取られたと思ったが、一塁手への送球が乱れた。2人の走者がかえり、サヨナラ勝ち。2時間40分の熱戦に終止符が打たれた。

 ベンチで見つめていた東京高校の永見光太郎(3年)の目には涙があふれていた。この試合で139球を一人で投げ抜いた。「正直、終わったと思った。勝ってうれしくて……」。神宮で初めて聞く校歌の間も、涙がとまらなかった。

 チームに助けられた試合だった。背番号1を背負う今大会注目のエース。春に習得した自慢のカットボールを武器に、相手打線を三回まで無失点に抑えていた。

 だが、今大会の先発は4試合目。5回戦までの3試合のうち、2試合で完投していた。暑さもあり、疲れもあった。

 五回、この試合で初めて連打を浴びた。「気持ちにあせりが出てしまって。いつもはできているのに、配球も落ち着いてできなかった」。この回だけで3失点。3試合で自責点1の右腕が今大会、相手打線に初めてつかまった。

 それでも、後半は修正した。力を抜くところは抜き、要所でギアを上げる。六回以降は無失点で相手に流れを渡さず、延長戦に持ち込んだ。

 エースの力投に、仲間も応える。

 八回、打者9人の攻撃で同点に追いつき、延長タイブレークへ。主将の嘉川璃輝史(りきと)(3年)は声をかけた。「全員でとりにいくぞ」。その思いは、十一回裏につながった。

 2死満塁、打者はチーム一の勝負強さを誇る井上渓太郎(3年)。「だめだったら仕方ない」。二ゴロで、夢中で一塁へ滑り込んだ。送球がそれ、一塁はセーフに。わき上がる大歓声で、勝ったことに気づいた。

 試合後、嘉川はうれしさと安堵感で、立ち上がれなかった。今春の大会後、練習試合で14連敗のどん底も味わった。「やっと一つになれた」。チームのスローガンは「伝説」。絶対的なエースを助け、初の4強を切り開いた。=神宮(野田枝里子)

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