(23日、第106回全国高校野球選手権石川大会準々決勝 門前0―3金沢学院大付)

 五回裏、門前のエース塩士暖(だん)投手(3年)がマウンドに向かう。先発の石田煌峨(こうが)投手(2年)に「任せろ」と声をかけた。

 石田投手はシード校・金沢学院大付打線を四回まで無得点に抑えたものの、この回3失点。声かけに笑顔を見せた。「よく粘ってくれた。あとは自分がやるしかない」と気持ちが入った。

 石田投手をはじめ、チームメートに支えられたと思っている。元日の能登半島地震で石川県輪島市の自宅が全壊した。近くの大屋小学校に避難して前川知貴主将(3年)と合流。高齢者を担架で3階まで運んだり、プールでの水くみを手伝ったりした。「これが現実とは受け入れられなかった」

 門前では寮生活を送る選手も少なくない。1月半ばから、この日唯一の安打を放った山本健文選手(2年)の金沢市の実家に避難。2月からは小松市内の石田投手の実家に2カ月間身を寄せた。

 リモート授業後は毎日石田投手と2人でキャッチボールや走り込みをした。食トレで避難の間に8キロ増量し「ご飯の面でも支えてもらえた」という。「2人で高め合えたから、ここまで成長できた」。輪島市内の自宅には3月末に戻り、4月からは門前での合同練習が再開した。

 九回まで無失点に抑えた。敗れたものの門前は石川大会で初の8強。塩士選手は「今までやってきたことは全て出せた。負けたけれど、全く後悔はないです」と話す。地震からの日々を「今までで一番濃かったし、成長できた半年間」と振り返る。「最後までみんなと(野球を)やれたことに、一番ほっとしている」とすがすがしい表情で語ったが、「まだ、みんなとやりたい気持ちはあるんですけど」と言うと言葉を詰まらせて顔を覆った。(砂山風磨)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。