(20日、全国高校野球選手権群馬大会3回戦、健大高崎6―5桐生第一=延長十一回タイブレーク)
3時間54分に及ぶ激闘を制したのは、選抜王者の健大高崎だった。
延長十一回裏1死一、二塁。高く舞いあがった打球が、中堅手の頭上を越えた。その瞬間、ベンチの選手たちはサヨナラ勝ちを確信。次々と両手を挙げて飛び出し、殊勲打の高山裕次郎(3年)をたたえた。
「何回も負けたと思う瞬間があった」と青柳博文監督は胸をなでおろした。こうも言った。「選手はそうではなかったみたいですね。箱山(遥人・3年)が決意を見せてくれました」。
その「決意」とは九回にあった。
あとアウト一つで勝利の場面から逆転を許し、4-5で裏の攻撃を迎えた。
ただ、追われる立場になってプレッシャーを感じていたのは相手も同じ。敵失とストレートの四球で無死一、二塁の好機を築き、4番で主将の箱山が右打席に立つ。
選抜大会で活躍し、今夏は2回戦で本塁打を放ったプロ注目の強打者。劇的な一打を誰もが期待した。だが、打席に立つ前にタイムをとったとき、箱山は青柳監督にこう言っていた。
「バントします」
初球を難なく一塁線に転がす。1死二、三塁とさらに好機を広げると、小さく拳を握ってベンチに戻った。
日頃から「チームのために」と繰り返す主将の献身的なプレー。続く斎藤銀乃助(3年)はスタンドの応援部員を見やりながら、シンプルに、やるべきことを考えた。「きわどいコースは捨てる。真ん中に来た球だけを打つ」。言葉通り、4球目を中前にはじき返して同点とし、延長へと持ち込んでいた。
春夏連覇の夢がついえる極限の場面を乗り越えた。そして、昨夏の群馬大会準決勝で完封負けを喫した相手に雪辱も果たした。
箱山は試合後、バントの場面について何でもないように振り返った。
「あそこはセオリー的にバント。自分はきょう当たってなかったし、左打者の方が打ちやすいと思った。確率の高い方を優先した。打ちたい気持ちもあったけど、『誰が決めなきゃいけない』っていうわけでもない」
春の選抜大会で優勝し、投打に高い個の力を見せつけたチーム。「夏は技術じゃなくて気持ちが強い方が勝つ」。その言葉の裏に、勝利に徹するたしかなチーム力がある。=上毛新聞敷島(大宮慎次朗)
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。