(18日、第106回全国高校野球選手権岡山大会2回戦 総社南3―4金光学園)
18日の2回戦、1点を追う総社南の九回裏2死一塁。1ボール2ストライクと追い込まれた打者にカメラを向けていたら、一塁走者がスタートを切った。アウトになったら試合終了。慌てて振ったレンズの中で、代走・武田尚大(3年)が金光学園の野手のタッチをかわして二塁に滑り込み、両腕を大きく横に広げた。
「ずっと代走の練習だけしていいですか」。この春、武田は板谷好通監督に申し出た。打球が飛ばず、外野の控えとなり、昨秋から代走起用が中心になっていた。
専念する決意を固めたプレーがある。昨秋の県大会準々決勝、おかやま山陽戦。0―0の六回、チーム初安打が出て代走に送られ、二盗に成功。敵失で生還して両チームで唯一の得点を挙げ、チームは1安打で夏の甲子園8強を破った。「これが一番チームのためになる」と確信した。
打撃練習からは外れて走力強化に専念し、相手投手の映像を何度も見返して牽制(けんせい)の癖や傾向を読んだ。
「いけると思ったらいつでもいけ」。監督からは判断の全権を与えられている。18日の二盗について「投手としては2―2にしてもいい場面で、牽制がきた。間をおいて打者に集中したいんだ、変化球がくる。そう読んで走った」と明かした。
打者は投飛を打ち上げ、武田が本塁手前まで走ったところで試合は終了。「ホーム、踏みたかったけど、ああいう場面で走るためだけにやってきた。悔いはないです」
「僕の高校野球はスパイクとヘルメットしか要りませんでした」と笑った武田。30年ちょっと高校野球を取材してきて、代走が主人公の記事は書いた記憶がないぞ。ナイスラン。(大野宏)
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