(19日、第106回全国高校野球選手権東東京大会4回戦 修徳9―2成城)

 「とにかく、楽しんでいこうぜ!」

 7点目をとられ、5点差となった五回表2死二塁。もう1点もやれない場面で成城の選手がエースの右腕、長谷川煌(ひかる)(3年)の元に集まった。左腕の袖で汗をぬぐいながら、長谷川も「っしゃー!」と応える。直後、左飛に打ち取り、ガッツポーズをして笑顔でベンチに戻った。

 中高一貫の成城にとって、6年間の集大成となる大会だった。「自学自習」の校訓通り、選手同士で「考える野球」を実践してきた。

 その一つが、長谷川の投球だ。左足を高く上げることなく、体をひねるようにして体重を移動させる独特のフォーム。捕手で主将の岩根祟真(そうま)(3年)と作り上げた。

 昨秋、右ひじの靱帯(じんたい)を損傷し、思うように練習できない時期が続いた。そんな時、憧れるドジャース・山本由伸投手を見て、フォームを変えることにした。2人で綿密に相談し、変化球も直球も勢いの出せるフォームへ改良を重ねていった。

 今大会、新フォームで長谷川は躍動した。2回戦、3回戦と先発し、チームを勝利に導いた。

 強力打線の修徳との19日の4回戦。小刻みに点を奪われ、マウンド上で苦しむ長谷川に、岩根は常に右の手のひらを下にし、「浮かせるな」、胸に手を当て「気持ちを入れていけ」とサインを送った。長谷川がこの試合で配球のサインに首を振ったのは1回だけ。岩根を信じて5回を投げきり、後輩の窪田彪我(ひゅうが)(2年)に譲った。

 長谷川は降板した後も、ベンチで身を乗り出し、仲間を鼓舞し続けた。だが、修徳との点差が縮められないまま、試合は終わった。ベンチでこらえていた涙があふれた。

 試合後、長谷川は「この夏、みんなを信じて投げられた。支えてもらった」と感謝を示した。岩根は「6年間一緒にやってきてよかった。全員が努力してここにたどり着けた」とエースをねぎらった。鈴木啓文監督もチームの成長を評価した。「6年間のつながりが大きな武器となって、実力以上のものが出せた」=神宮(石川瀬里)

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