(18日、第106回全国高校野球選手権埼玉大会3回戦、東野0―3市浦和)

 八回、犠飛で追加点を許し、なお二塁に走者を置いた場面。東野のエース武山侑夢(3年)は渾身の力で直球を投げた。三振に打ち取り、小さく右手でガッツポーズ。小走りで仲間が待つベンチへ戻った。序盤に2点を失い、終始追う展開。それでもベンチは笑顔が絶えず、メンバーは声を出し続けた。

 埼玉大会で勝てない時期が続いた東野。2012年に1勝した後は、20年まで勝てなかった。「野球部を強くしたい」と鞠子和也監督が勧誘したのが、現在の3年生だ。入学当時、3年生は1人、2年生は9人だけだった。

 武山は1年から中心選手だったが、春先に投球フォームを崩して制球難に陥り、春季大会では背番号1をつけられなかった。「夏は1番を取り戻す」。フォームを撮影し、動画を繰り返し見ては体に覚えさせた。6月下旬にようやく本来の制球力を取り戻し、直球も常時130キロ台が出るまでになった。市浦和戦を前に、捕手の小林冬弥(3年)と打者ごとの攻略法を考え続けた。

 ピンチをしのいだ直後の九回の攻撃は、好機を作るも得点できなかった。相手を上回る安打を放ったが、再三の好守に阻まれ、1点が遠かった。

 小林は試合後、武山の制球力に舌を巻いた。「すべての球が構えたところに来た。受けていて最高に楽しかった」。武山は涙のまま胸を張った。「練習試合や大会を含めて、今までの試合で一番の投球ができた」(中村瞬)

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