阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)は8月に開場から100年を迎える。朝日新聞岡山総局は第106回全国高校野球選手権岡山大会に出場する全58校の主将と監督・部長らに「甲子園にまつわる印象深い出来事」をアンケートで尋ねた。挙がってきたのは球史に残る名勝負の数々。「聖地」で生まれたドラマは、時代を超えて語り継がれる。
「奇跡」起こした伝説のプレーも
最多の16票を集めたのは、松坂大輔投手を擁して春夏連覇を達成した第80回記念大会(1998年)の横浜(東神奈川)。延長17回にもつれこんだPL学園(南大阪)との準々決勝との回答が目立った。80年度に生まれた「松坂世代」の高校生は今40代半ば。同世代の指導者から12票、ほとんどが2006年度生まれの主将からも4票を集めた。
6票で続いたのは、延長再試合にもつれこんだ06年夏の決勝、早稲田実(西東京)―駒大苫小牧(南北海道)と、18年夏に決勝に進んだ金足農(秋田)だ。主将5人が「金農旋風」を挙げた。準々決勝の近江(滋賀)戦で見せた逆転サヨナラ2ランスクイズが印象的だったようだ。
昨夏のおかやま山陽8強入りなど3件が5票で並んだ。中でも1996年決勝については松山商のサヨナラ負けを防いだ「奇跡のバックホーム」と5票全てが具体的にこのプレーを挙げていた。延長十回裏1死満塁、熊本工の選手が打ち上げた飛球を、交代直後の右翼手が好返球。タッチアップした三塁走者を刺した。松山商は十一回表に勝ち越し、優勝した。92年夏の明徳義塾(高知)戦で5打席全て敬遠された松井秀喜選手(石川・星稜)も挙がった。
続いて、昨夏の慶応(神奈川)の全国優勝と、2016年夏、最大7点差が覆った八戸学院光星(青森)―東邦(愛知)戦がそれぞれ4票。「甲子園の雰囲気と力の怖さを感じた」(岡山朝日・主将)と逆転負けを喫した光星側の視点に立つ意見が目立った。(大野宏)
「わくわくできるのは甲子園のおかげ」
夏の全国大会でまだ優勝が無いせいもあってか、岡山県勢への票は昨夏のおかやま山陽が最多だった。
ただ、それ以外でも印象深い二つを紹介したい。「九回裏2アウト満塁2―3にはしびれた」とカウントまで書いてきたのは笠岡工の近藤俊介監督(41)。2001年夏、玉野光南の二塁手として甲子園に出場し、2回戦で日南学園(宮崎)と対戦。大会屈指の剛腕寺原隼人投手(後にソフトバンクなど)が五回から登板し、当時甲子園最速となる154キロをマークした。
しかし光南は六回に3点を奪って一時逆転。同点の九回裏、2死満塁とし、打席に立った6番・吉川紘提選手はフルカウントに持ち込んだ。近藤監督は「これは勝てる、とイケイケでベンチで声を出してました」と振り返る。吉川選手は直球を痛打したが、三塁手の正面を突き、封殺。
「寺原君が置きにいったストライク。打球が1メートルずれて抜けていたら、人生が大きく変わったかもしれません」。延長十回表に2点を奪われて敗れた。「悔しさはあるけど、楽しかった。今もわくわくしながら働けるのは甲子園のおかげです」
閉会式のトンボ 幕閉じる球児の夏
夏の県勢の最高成績は99年の岡山理大付の準優勝だ。安田貴志部長(59)は印象に残る場面を「閉会式」と回答した。当時も部長として前夜まで応援団などの対応に奔走。決勝で桐生第一(群馬)に敗れ、改めて甲子園を眺めたとき「外野の芝生にトンボがいっぱい飛んでいると初めて気がついた」という。
涼しい山上で暑さを避けていた赤トンボは、秋の訪れを感じると、甲子園へ下りてくる。「ああ、終わったんだな」と長かった夏の幕が下りたと実感したという。
記者は「松井の5敬遠」の年に入社して以来、ほぼ毎年高校野球に関わってきたが、夏の決勝を甲子園で見たのは1年目が最初で最後。無我夢中で見えなかった「閉会式の赤トンボ」、一度は見てみたい。(大野宏)
■岡山大会58校の主将と指導者が選ぶ名場面
・横浜春夏連覇(1998年) 16票(指導者12票、主将4票)
PLとの延長17回、決勝の無安打無得点
・早実―駒大苫小牧(2006年) 6票(5票、1票)
決勝・延長再試合
・金足農旋風(2018年) 6票(1票、5票)
逆転サヨナラ2ランスクイズ
・松山商―熊本工(1996年) 5票(4票、1票)
奇跡のバックホーム
・おかやま山陽8強(2023年) 5票(0票、5票)
大垣日大に延長タイブレークで逆転サヨナラ
・明徳義塾―星稜(1992年) 5票(2票、3票)
松井秀喜選手への5打席連続敬遠
・八戸学院光星―東邦(2016年) 4票(0票、4票)
最大7点差、九回4点差を逆転サヨナラ
・慶応の優勝(2023年) 4票(0票、4票)
107年ぶり2度目の優勝
・佐賀北「がばい旋風」(2007年)3票(3票、0票)
公立高最後の全国制覇
・中京大中京―日本文理(2009年)3票(1票、2票)
決勝の九回、6点差を1点差に追い上げ
・済美―星稜(2018年) 3票(0票、3票)
延長13回、済美が逆転サヨナラ満塁本塁打
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