平均台の演技を確認する杉原愛子選手=群馬県高崎市で2024年4月10日、角田直哉撮影

 1年前は外から見ていた舞台に、選手として舞い戻る。11日に始まる体操の全日本個人総合選手権(高崎アリーナ)に出場し、パリオリンピックを目指す杉原愛子選手(24)=TRyAS。「美しさ」と「楽しさ」の両輪で、3度目の五輪と競技普及の二つを追う。

 「調子も上がり、早く試合がしたくて、ワクワクしている。体操の魅力を、桜のように満開でお披露目できるように頑張りたい」

 予選を翌日に控えた10日の会場練習で、杉原選手の声は弾んでいた。今夏のパリ五輪の代表選考会も兼ねる国内最高峰の舞台。杉原選手は体力に不安を抱えつつ、量より質にこだわった練習で、持ち味の細部まで美しい体操を磨いた。「ほんまにどうなるか私自身分からない」と言うが、口からは何度も「楽しみ」という言葉がこぼれる。

 昨年のこの大会、杉原選手はリポーターとして選手の活躍を「伝える」側だった。2016年リオデジャネイロ五輪、21年東京五輪に出場し、22年6月に一度は現役引退を表明。指導者や審判、解説者などと活動の幅を広げる中で競技への思いが再燃して、23年6月の全日本種目別選手権で電撃復帰、床運動でいきなり優勝して健在ぶりを示した。

 この時の杉原選手は、さすがにパリ五輪のことまで頭になかったと言う。だが、リポーターとして会場入りした昨秋の杭州アジア大会での選手の姿に「やっぱり楽しそうやな。もう一回日の丸をつけて、世界の舞台で演技したい」と、再び五輪を目指すことを決めた。

練習の合間に笑顔を見せる杉原愛子選手=群馬県高崎市で2024年4月10日、角田直哉撮影

 そこからは前向きな明るい性格で、困難に立ち向かった。クラウドファンディングで支援を募り、2月には米国で約2週間の合宿を実施。リオ五輪4冠のシモーン・バイルス選手(米国)らが所属するクラブチームで、午前7時~10時半と午後2~5時までの厳しい練習をともにこなした。その成果も出て「前より今の杉原愛子の方がいけるんじゃね?みたいな感じで確信に変わった」と頼もしい。

 以前から持っていた「体操をメジャー競技へ」という思いも日々強め、実際の行動に移す。今年3月には新しい体操サークルの立ち上げを発表。SNS(ネット交流サービス)を活用した積極的な情報発信や、選手がより体操に取り組みやすくなる持続的な環境作りなどに注力する活動も始めた。根底にあるのは「体操は楽しい、という競技の魅力を広めたい」との信念だ。

 美しさと楽しさ。両方を表現するのは難しくないのか。杉原選手は笑みを浮かべて、言いきった。

 「結果を意識しすぎても、いい演技ができた経験が自分自身はない。やっぱり楽しんでやっているからこそ、体操の魅力もたくさんの人に伝えられるし、そこから結果にもつながると思う」

 理想を追い続ける、杉原選手の新章がスタートする。【角田直哉】

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