アメリカはじめ主要国は、イスラエルとパレスチナが2つの国家として認め合う最終ゴールを掲げる。国連加盟決議案はその欺瞞を浮き彫りにした。

ガザ地区ラファで家屋の瓦礫の中から遺品を集める子どもたち(写真:Abed Rahim Khatib/Anadolu Getty Images)

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イスラエルのガザ侵攻で注目を集めるパレスチナ問題は、アメリカをはじめ多くの国が、最終的にはイスラエルとパレスチナという2つの国が独立し相互に認める「二国家解決案」以外に出口はないと主張している。

二国家解決案の前提である「パレスチナ」は、そもそも国家なのだろうか。

パレスチナは現在、イスラエルの容赦ない攻撃を受けて悲惨な状況にあるガザ地区と、ガザから遠く離れた「ヨルダン川西岸」の2つの地区から成り立っている。パレスチナを支配するパレスチナ解放機構(PLO)とイスラエルは長年、互いの存在さえ認めない対立関係にあった。

「二つの国家」共存案の紆余曲折

ところが1993年、イスラエルがパレスチナ側の自治政府設立を認め、占領地からのイスラエル軍の撤退などで合意した。これが「オスロ合意」である。

同時にイスラエルは将来、パレスチナを独立国家とすることも認めた。これがイスラエルとパレスチナの二つの国家が共存する「二国家解決案」である。

オスロ合意に基づき翌年、パレスチナ自治政府が発足し、国際社会での活動を始めた。ところが2007年、ハマスがガザ地区を武力制圧し実権を握ると、パレスチナは西岸の自治政府とガザ地区のハマスによる分割統治が始まり今日に至っている。

国際社会は国家で成り立っているが、ある「国」が、国家であるかどうかを判断することは簡単な話ではない。

国際法は一般論として国家の要件を4つあげている。国民が存在していること、はっきりとした領土があること、きちんと統治できる政府が確立していること、そして国際法を守り他国と関係を取り結ぶ外交能力があることだ。

これらは最低限の要件であるが、これを満たさなければ国家として承認されず、満たせば認められるかというと、そう単純な話ではない。政治的理由を背景とした例外は少なくない。

ではパレスチナはどうか。

「領土の確定」「統治する政府」を揺るがす入植

約540万人のパレスチナ人が住んでおり国民は存在している。領土はヨルダン川西岸とガザ地区に分かれているがいずれもパレスチナの土地とされている。

しかし、ヨルダン川西岸にはイスラエルが数多くの入植地を作っており虫食い状態になっている。ガザ地区は戦闘状態にあり、イスラエル軍が広範囲に侵攻している。領土が確定しているとは言いにくい状況にあるだろう。

国を統治する政府の存在についてはさらに難しい。

ガザ地区をハマスが支配して以降、パレスチナは自治政府とハマスによる分断統治状態にあった。現在、ガザ地区のハマス政権は壊滅状態にある。ヨルダン川西岸も1967年の第3次中東戦争以後、イスラエルによる占領状態にあり、自治政府の権限は多くの制約が加えられ十分に機能しているとはいいがたい状況だ。

ところがこのパレスチナを現在、140の国が国家として承認している。承認していないのは53カ国で、アメリカや日本などG7はじめ西側諸国が目立つ。イスラエルとの関係を重視するためであろうが、国際社会では少数派だ。

国連でもパレスチナの存在は大きく変わってきた。

最初の登場は1974年。PLOがパレスチナ人の正当な代表として認められ、国連総会にオブザーバー機構として参加できる地位を与えられた。投票権や発言権はないものの、総会会場に席を得たのである。

そして、2011年にはユネスコへの加盟が承認された。さらにPLOから名前を変えたパレスチナは2012年、国連総会での地位が「オブザーバー機構」から「オブザーバー国家」に格上げされた。

2015年にはパレスチナ自治政府の旗を国連本部前に掲揚する決議が総会で採択された。国連においてパレスチナは次第に実質的な国家として認められてきたのである。

国連加盟決議にアメリカは拒否権発動

そして、今年4月18日、安全保障理事会でパレスチナの国連加盟を求める決議案の採決が行われた。

国連加盟は総会決議の前に安保理での議決が必要となっている。結果は15の理事国中、12カ国が賛成し棄権はわずか2カ国だったがアメリカが拒否権を発動したため否決となった。

パレスチナの国連加盟問題は2011年にも提起されたが、やはりアメリカが強く反対したため安保理での採決に至らず棚上げされてしまった。

イスラエルのガザ侵攻を支持するアメリカは、国連の場では一貫して親イスラエルの立場を貫き、パレスチナの格上げなどに反対してきた。今回も安保理で「和平はイスラエルの安全が保障された二国家解決によってのみ達成できる」とし、現状ではパレスチナの国連加盟は「時期尚早である」と反対した。

これに対し中ロを始めほかの理事国の多くは、ガザ侵攻を続けるイスラエルとそれを支持するアメリカを激しく批判するとともに「二国家解決案」の促進を訴えた。

パレスチナの国連加盟を提出したのは反欧米姿勢の強いアルジェリアだった。

ガザが混乱に陥っているこのタイミングで提起した意図は定かではないが、一連の攻撃で3万人を超える犠牲者を出したイスラエルに対する国際社会の批判が高まっている中で、西側諸国の足並みの乱れやアメリカの指導力不足、国際社会での孤立を浮き彫りにしようという政治的意図があったのだろう。

事実、G7の国では英国が棄権、フランスと日本は賛成を投じており、アメリカに歩調を合わせた国はなかった。アメリカの孤立ははっきりしたと言えるだろう。

そもそも「二国家解決案」を掲げながらも、パレスチナを国家として認めないアメリカの対応は矛盾そのものである。

今回の投票で、意外だったのは日本が賛成票を投じたことだ。

日本はパレスチナを国家として承認していない。アメリカやイスラエルに対する配慮から承認をしていないのである。だからといってパレスチナとの関係が悪いわけではなく、パレスチナのオブザーバー国家への格上げや国旗掲揚には賛成し、ユネスコ加盟では棄権するなどアメリカとは異なる対応もしてきた。

とはいえ、国連加盟となるとまったく次元の異なる重い話だ。

強い反対論のなかで賛成に至った「外交の新潮流」

関係者によると、採決にあたって日本政府内には日米同盟関係を重視する立場からパレスチナの国連加盟に強い反対論があったという。岸田首相が訪米して日米両国のグローバルな協力を合意したばかりなのに、わずか数日後にアメリカと正反対の対応はすべきでないというのだ。

しかし、『「日米蜜月」アピールと裏腹に進む「外交の新潮流」』(4月16日)で紹介したように、政府内の主流派はすでに日米同盟一本やりの外交に距離を置いている。

アラブ諸国やグローバル・サウスの国々はパレスチナ問題に日本がどう対応するか注目している。日米同盟関係が重要なのは言うまでもないが、ASEAN、欧州、グローバル・サウスの国々との幅広い外交を展開し、多角的な国家グループを形成することが日本や地域の安定実現につながる。

安保理でパレスチナ加盟に反対や棄権という行動をとれば、グローバル・サウスなどの国が日本から離れていくだろう。だから賛成すべきだという考えがより力を持っているのだ。

そもそもアメリカは採決前から拒否権発動を明言していた。従って日本がどういう行動をとろうが結果に影響はなかった。結局、訪米の成果に気をよくしていた岸田首相も、賛成投票を了解した。そして、投票後、アメリカ政府から日本に対してのクレームはなかったという。

こうして各国の対応を見ると、二国家解決案に現実味がない今、パレスチナの国連加盟問題は主要国間の主導権争いや外交的駆け引きの道具でしかないようだ。

アメリカをはじめ主要国は口をそろえて二国家解決案が最終的ゴールだと主張するが、ハマス壊滅に突っ走るイスラエルの強硬姿勢を前に、どの国も実現に向けて動こうとはしない。

一方で、ガザでは今も地獄のような日々が続いている。残念ながら、それが外交の世界の現実である。

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