自宅近くから見えるタワーマンションに男性は「住む世界が違いますね」と話した=福岡市で2024年10月5日、平川義之撮影
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 政治不信が極まるなか、短期決戦の火ぶたが切られた。9日、衆院が解散され、15日公示、27日投開票へ向けて事実上の選挙戦が始まった。上向かない暮らしや相次ぐ災害など、さまざまな課題に直面する有権者は誰にどんな思いを託すのか。

 岸田文雄前政権の3年間、物価上昇のなかで実質賃金が26カ月連続でマイナスとなるなど、労働者にとっては厳しい状況が続く。バブル崩壊後に就職期を迎えた「就職氷河期世代」の40代の男性=福岡市=も先の見えない不安を抱える。暮らしがよくなるよう政治に期待したい半面、裏金問題をはじめ醜聞が絶えない現状に「今までも我慢はしてきたけれど……」と諦めに近い感情が膨らむ。

 バブル崩壊後の1990~2000年代、雇用の悪化で多くの若者が路頭に迷った。90年代に地方の国立大を卒業した男性は、幼い頃から夢見た仕事があったが、会社が採用を中断していたため断念した。別の50社に入社希望を出したが、面接に至ったのは2社で、いずれも不採用だった。

 ツテを頼って地元の菓子店に職を得たが、低賃金と長時間勤務に耐えられず1年で退職した。その後、卒業した大学に紹介されたのが福岡市の製造関係の中小企業だった。高卒の待遇で、総合職でなく一般職という条件だった。他に選択肢はなく、のまざるを得なかった。

 同じ頃、親が営む小さな会社が不況のあおりで倒産した。親の借金のうち700万円を肩代わりした。

 入社から20年あまり。借金は返済したが、社内の階級は係長のままで、部下はいない。上司には「お前の代わりはいくらでもいる」と言われる。会社のためにと始業時間前に出勤して機械のメンテナンスをしてきたが、上司の目を気にしてタイムカードは切れなかった。「ポンコツの社畜です」。自らをそう自虐する。

 それでも結婚して2人の子に恵まれ、市郊外の団地でつつましく暮らす。始発ごろ出勤し、帰宅は大抵午後9時を過ぎる。小遣いは月1万円。子どもを学習塾に通わせる余裕はない。転職を考えているが、不安が先立ち踏み切れない。

 内閣官房によると、就職氷河期の中心は41~50歳の約1700万人で、約37万人(23年)が不本意な非正規雇用の状態にある。就職できないまま引きこもりになるケースもあるが、政府の支援は十分とはいえない。

 岸田前政権下では日経平均株価が34年ぶりに最高値を更新したが、男性は生活が豊かになった実感はない。噴出した自民党の裏金問題には「国のためでなく票集めの活動をしてきた結果では」と不信感が募る。「せめて子どもたちが、自分のやりたいことを目指せる社会であってほしい」。それを実現できる政治を求めている。【山口響】

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