能登半島地震の発生から3週間余り。今も1万5千人以上が避難生活を送っている。過去の震災では、避難所や仮設住宅での性被害が報告され、今回の被災地でも起きた。断水が続くなど過酷な状況下、生きる上で必要な支援とともに、性被害を防ぐ対策についても考えたい。 (長田真由美)

■東日本でも報告

 2011年に発生した東日本大震災では、「授乳している様子をじっと見られた」「夜になると男の人が毛布に入ってきた。周りも『若いから仕方ない』と見て見ぬふりをする」といった性被害が報告された。  NPO法人「ウィメンズネット・こうべ」(神戸市)の代表理事、正井礼子さん(74)は「日本では長い間、災害時に性被害が起こるわけがないと思われていたが、阪神大震災でも同じことがあった」と話す。  正井さんは東日本大震災発生から2カ月後、国内外の専門家と「東日本大震災女性支援ネットワーク」を発足。直接被害を目撃した人や相談を受けた人たちを対象にアンケートを実施した。そこで語られたのは、災害によって暴力が正当化され、性被害にあっても訴えにくい状況だった。被害を訴えても「加害者も被災者なのだから」と諭された女性もいた。  性被害やDVの被害者は「5歳未満」から「60代以上」まで。子どもや高齢者も対象になった。避難所の男性が見知らぬ女児にキスしたり、男児の下着を脱がしたりといった事例のほか、ボランティアや医療従事者ら支援者にも及んだという。  正井さんは「避難所の運営に女性が関わっていないことが問題」と指摘する。東日本大震災でも、多くの施設で間仕切りがなく雑魚寝状態で、プライバシーが守られなかった。着替える場所はなく、夜になるとあえて若い女性の隣で寝ようとする男性もいた。

■トイレが「怖い」

 トイレの問題も深刻だ。被災者支援の国際基準を定めた「スフィア基準」では、トイレの男女比は「1対3」とする。しかし、被災地のトイレの多くは男女兼用で、人の少ない暗い場所に設置されがち。「もし無理やり、誰かが入ってきたらと思うと、怖くて使えなかったという声も聞いた」。人目があって明るい場所に設置することが重要だ。  内閣府は20年に、女性の視点を盛り込んだ「防災・復興ガイドライン」を策定。プライバシーが確保された間仕切り▽男女別のトイレや更衣室、休養スペース、入浴設備▽女性用品の配布場所の設置▽避難所運営体制への女性の参画-などを挙げる。  能登半島地震の被災地でも性被害は起きている。地震直後に避難する車の中で、金沢市の自称アルバイトの男(19)が10代女性の体を服の上から複数回触り、20日に逮捕された。石川県警によると、男も輪島市内で被災したとみられ、女性と男は顔見知りではなかったが、女性とその家族が乗った車に乗せてもらっていたという。  同県では、性被害防止の啓発ポスターを避難所に順次配り、県警などは相談窓口も設けている。「ウィメンズネット・こうべ」の正井さんは「可能な限り、性被害を防止する観点を取り入れながら丁寧に支援してほしい」と訴えた。

石川県が避難所に配布したポスター




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